第1章:chapter 1

KDIGO CKDガイドラインとCKD診療ガイド2012

監修:今井圓裕(中山寺クリニック院長)

KDIGO CKDガイドラインにみるCKDの包括的診療 監修:今井圓裕、稲葉雅章、塚本雄介

この特集トップへ戻る
第1章:chapter 1
KDIGO CKDガイドラインとCKD診療ガイド2012
副題:
リスク解析に基づく新しい定義と分類
第2章:chapter 2
KDIGO CKDガイドラインとCKDにおけるミネラル骨異常症(CKD-MBD)の診療
第3章:chapter 3
KDIGOガイドラインにみるCKDにおける総体的な治療戦略の立て方
サイトトップへ戻る

1.CKDの定義

KDIGOのCKDの定義は腎臓の障害(蛋白尿など(表1参照))、もしくはGFR(糸球体濾過量)60 mL/分/1.73m2未満の腎機能低下が3か月以上持続する場合である。

2002年にKidney Disease Outcome Quality Initiatives (K/DOQI)が、これまでの腎臓病疾患・治療概念とは全く異なったCKDという概念を打ち出し、「腎臓の障害(蛋白尿など)、もしくはGFR(糸球体濾過量)60 mL/分/1.73m2未満の腎機能低下が3か月以上持続するもの」とCKDを定義してから10年が経つ1。2005年に国際腎臓病ガイドライン機構のKDIGO(Kidney Disease: Improving Global Outcome)がマイナーな改訂を行い、透析患者もCKDに入れてCKD5Dとすること、並びに腎移植患者はTをステージの後に付けることが追加された2。2013年に出版されたKDIGOによるCKDの評価とマネジメントに関するガイドライン20123は、2009年にKDIGOが開催したCKDの定義、評価と重症度分類に関するコントラバシーカンファレンス4を受けての改定である。CKDの定義に関しては内容に変化はないが、KDIGOのガイドライン2012では、腎障害の具体的な例も示されている(表1)3。

2002年の時点では、CKDの定義にあるGFR60mL/min/1.73m2において死亡のリスクが上昇することが証明されていなかった点が問題であった。このコントラバシーカンファレンスで、150万人のコホートを解析し、GFR95mL/min/1.73m2を基準とすると、GFR60mL/min/1.73m2では、死亡のリスクは1.18倍することが示され(図1) 5、CKDの定義としてGFR60mL/min/1.73m2未満とすることの妥当性が確認された。一方、同じGFRカテゴリーでも、アルブミン尿が増加すると死亡のリスク、心血管死のリスクが上昇することも示されている(図2)5。

表1.CKDの診断基準(下記のいずれかが3か月以上持続)

腎障害のマーカー
(1つまたは1つ以上)

アルブミン尿(AER≥30mg/24時間, ACR≥30mg/g, [3mg/mmol])

尿沈渣異常

尿細管障害による電解質およびその他の異常

組織学的に明らかになった異常

画像診断による形態異常

腎移植の既往

GFRの低下

GFR<60ml/min/1.73m2(GFRカテゴリーG3a-G5)

図1 GFRと死亡率、心血管死亡率の関係 A.総死亡 C.心血管死亡5

GFR95mL/min/1.73m2で尿アルブミン/クレアチニン比5mg/gCrを対照としたハザードリスクを示す。

●は有意差があるリスクの上昇または低下を示す。

図2 GFR、アルブミン尿、蛋白尿と死亡、心血管死のリスク5

死亡、心血管死亡のリスクはGFR60mL/min/1.73m2以下ではGFRの低下とともに上昇する。また、アルブミン尿や検尿試験紙で検出される尿蛋白の増加とともに死亡、心血管死亡のリスクは上昇する。

2.CKDの重症度分類

  • KDIGOのCKD重症度分類が改定され、原疾患、GFR、尿アルブミンで評価することとなった。
  • 尿アルブミン量はmg/gCr(またはmg/mmol)で評価し、30mg/gCr未満をnormal to mildly increased、 30-299mg/gCrをmoderately increased、300mg/gCr以上をseverely increasedと分類する。
  • GFRは45mL/min/1.73m2でG3aとG3bに分割された。

アルブミン尿(蛋白尿)は、GFRとともに死亡、腎機能低下および心血管疾患発症のリスクファクターである。2002年の重症度分類はGFRだけで判定されたが、アルブミン尿を評価しないことには当初から問題として指摘されていた。今回のコントラバシーカンファレンスの成果でもある、アルブミン尿の多寡で死亡、心血管病死、末期腎不全のリスクが異なるというエビデンスに基づき5、2012年の重症度分類はアルブミン尿をすべての患者で評価することとなった。検尿試験紙で検出することができないレベルの尿アルブミン(30-299mg/gCr)を微量アルブミン尿と命名し、その臨床的意義が強調されてきた。しかし、KDIGOのガイドラインでは、微量アルブミン尿という言葉は軽微であるという誤解を生むため、これを廃止して、moderately increased albuminuriaに変更された3。

GFRのカテゴリーも従来ステージ3とされていたGFR30-59mL/min/1.73m2に相当する患者が最も多くなることが指摘されていた。GFR45mL/min/1.73m2でステージ3を分割し、G3a,G3bとすることにより、リスクの層別化を図ることで、より適切に重症度を管理することができると考えられる4。

また、今回の改訂ではCKDの原因を記載することとなった。これは特に糖尿病を意識した改訂である。糖尿病は糸球体腎炎や高血圧を原因とするCKDより死亡、心血管死亡のリスクが高くなる。すなわち、原疾患ごとに分けることにより、CKD患者の予後をより正確に推定することができる。

以上の結果、CKDの重症度は原因(Cause: C)、腎機能(GFR:G)、蛋白尿(アルブミン尿:A)によるCGA分類で評価し、マトリックスで評価をすることとなった(表2)4。重症度は色で表され、緑を正常とすると、黄、オレンジ、赤と重症になるにつれて色が変わり、患者にとっても分かりやすいものとなる。また、CKDの重症度の表記は、糖尿病G2A3、腎硬化症G3bA2などのように表記する4。

3.CKD重症度分類におけるKDIGO CKDガイドラインとCKD診療ガイド2012の違い

  1. わが国のCKDの重症度分類は尿アルブミン量と尿蛋白量を併記することとなった(表3)。
  2. わが国ではアルブミン尿を保険診療で測定できるのは糖尿病だけであり、それ以外の疾患は尿蛋白で評価する。アルブミン尿に対応する尿蛋白をそれぞれ、軽度蛋白尿(0.15-0.49g/日)、高度蛋白尿(0.5g/日以上)と命名した。
  3. わが国では、微量アルブミン尿の概念が臨床では良く浸透しており、これを中等度増加したアルブミン尿とすることは混乱を生じるため、変更しない。
  4. CKDステージ3は45mL/min/1.73m2で分割しG3aとG3bとされているが、わが国では日本腎臓学会が専門医への受診を推奨するレベルである50mL/min/1.73m2(70歳以上では40 mL/min/1.73m2)も使用する(表4)。

KDIGOから提唱されたCKDの重症度分類(表2)をわが国でどのように適用させるかについては、日本腎臓学会慢性腎臓病対策委員会(CKD対策委員会)、ならびに日本腎臓学会理事会で議論され、わが国の実際の診療に適応する形で導入することとなり、そのためにCKD診療ガイド20126として出版することが決定された。CKD診療ガイド2012改訂委員会にて修正されたわが国の重症度分類を表3に示す。

わが国の保険診療上は糖尿病以外アルブミン尿を測定することはできない。CKD診療におけるアルブミン尿の分類については日本腎臓学会と日本糖尿病学会の糖尿病性腎症合同委員会で検討された。日本において微量アルブミン尿は糖尿病性腎症の診断に必須であり、かつ、心血管イベントが有意に増加することをしめす重要なバイオマーカーであるため、

表3
わが国のCKD重症度分類

KDIGOのCKD診療ガイドラインでは専門医への紹介を推奨するCKDの重症度に関しても重症度分類の表を使用して示されている(表4)。これに対応するわが国の腎専門医への紹介基準の作成についても協議された。

わが国のCKD罹病率は1330万人と推定されている。なかでもCKDステージ3の患者が1000万人以上いることが明らかとなり7、CKDステージ3患者にどのように対応するかについて2008年に検討された。その結果、患者を層別化し、末期腎不全に進行するリスクの高い患者を抽出することが重要であるとの方針が立てられた。1つの方法は健診データを使用して(表5)わが国の腎専門医への紹介基準ある。

わが国で毎年健診を受けている13万人のデータから10年間にどの程度GFRが低下するかを計算し、GFR50mL/min/1.73m2未満では腎機能低下速度が2倍以上になることが示されていた8。また、70歳以上ではGFR40mL/min/1.73m2未満でGFRが低下する速度が2倍以上になる8。また、顕性蛋白尿があると腎機能低下速度は2倍以上に早くなる。これらの結果を腎専門医への紹介の時に応用することとした。

GFR50mL/min/1.73m2とGFR45mL/min/1.73m2の2つの基準を作成することについても議論があったが、山縣邦弘らの茨城県の疫学データで両者に死亡のリスクに差があることが示され、専門医への紹介基準としては2つの基準を並立させることとした。これらの結果を踏まえて、KDIGOのガイドラインで示された腎臓専門への受診の推奨を示す表は修正された(表5)6。

表5 わが国の腎専門医への紹介基準

まとめ

KDIGOのCKD診療ガイドラインは包括的にCKD診療に関するポイントをエビデンスに基づいた推奨グレードとともに示してあり、実臨床で役立つものとなっている。このガイドラインのわが国への適用については、KDIGOのエビデンスに日本独自のエビデンスを加えて修正し、よりプラクティカルな形でCKD診療ガイドライン2012として出版された。今後、関連する学会にも広く受け入れられるように働きかけるとともに、臨床研究や疫学研究で重症度分類が活用され、新しいエビデンスが構築されることが重要である。

参考文献

  1. National Kidney Foundation: K/DOQI Clinical Practice Guideline for Chronic Kidney Disease: Evaluation, Classification and Stratification. Am J Kidny Dis 39 (Supple 1): S1-S266, 2002
  2. Levey AS, Eckardt KU, Tsukamoto Y, et al: Definition and classification of chronic kidney disease: a position statement from Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO). Kidney Int. 2005 Jun;67(6):2089-100.
  3. Levin A, Stevens PE et al; KDIGO clinical practice guideline for evaluation and management of CKD 2012, Kidney Int Supplement 2013
  4. Levey AS, de Jong PE, Coresh J, El Nahas M, Astor BC, Matsushita K, Gansevoort RT, Kasiske BL, Eckardt KU.: The definition, classification, and prognosis of chronic kidney disease: a KDIGO Controversies Conference report. Kidney Int. 2011 Jul;80(1):17-28
  5. Matsushita K, van der Velde M, Astor BC, Woodward M et al: Association of estimated glomerular filtration rate and albuminuria with all-cause and cardiovascular mortality in general population cohorts: a collaborative meta-analysis. Lancet. 2010 Jun 12;375(9731):2073-81
  6. 日本腎臓学会編 CKD診療ガイド2012 東京医学社
  7. Imai E, Horio M, Watanabe T, Iseki K, Yamagata K, Hara S, Ura N, Kiyohara Y, Moriyama T, Ando Y, Fujimoto S, Konta T, Yokoyama H, Makino H, Hishida A, Matsuo S. Prevalence of chronic kidney disease in the Japanese general population. Clin Exp Nephrol. 2009 Dec;13(6):621-30.
  8. Imai E, Horio M, Yamagata K, et al: Slower decline of glomerular filtration rate in the Japanese general population: a longitudinal 10-year follow-up study. Hypertens Res. 2008 Mar;31(3):433-41.

contents

第1章:chapter 1
KDIGO CKDガイドラインとCKD診療ガイド2012
副題:リスク解析に基づく新しい定義と分類
今井圓裕(中山寺クリニック院長)
第2章:chapter 2
KDIGO CKDガイドラインとCKDにおけるミネラル骨異常症(CKD-MBD)の診療
稲葉雅章(大阪市立大学大学院医学研究科 代謝内分泌・腎臓病態内科学教授)
第3章:chapter 3
KDIGOガイドラインにみるCKDにおける総体的な治療戦略の立て方
塚本雄介(板橋中央総合病院副院長)