第2章:chapter 2

KDIGO CKDガイドラインとCKDにおけるミネラル骨異常症(CKD-MBD)の診療

監修:稲葉雅章(大阪市立大学大学院医学研究科 代謝内分泌・腎臓病態内科学教授)

KDIGO CKDガイドラインにみるCKDの包括的診療 監修:今井圓裕、稲葉雅章、塚本雄介

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第1章:chapter 1
KDIGO CKDガイドラインとCKD診療ガイド2012
副題:
リスク解析に基づく新しい定義と分類
第2章:chapter 2
KDIGO CKDガイドラインとCKDにおけるミネラル骨異常症(CKD-MBD)の診療
第3章:chapter 3
KDIGOガイドラインにみるCKDにおける総体的な治療戦略の立て方
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1.CKD-MBDの各ステージの重要な病態

本稿では、KDIGOによるCKDガイドラインのGFRカテゴリーに基づいてCKD-MBD治療の概念について述べる。 図1に示すようにCKD-MBDの端緒は、腎機能低下にともなう尿中へのリン排泄低下のもたらす血中へのリン負荷である。これに基づきステージG1~2では血清リンは上昇しないものの血清FGF-23濃度の上昇が出現する(図2)。ステージG2~G3にかけてビタミンD欠乏が、ステージG3では血清PTH上昇による骨代謝回転亢進が出現する。ステージG4ではこれら3つの血清リン低下機構の作動にもかかわらず、腎からのリン排泄低下が顕著となり、血清リン濃度が上昇し始める。同じCKD病期であっても、PTHの骨での反応性は閉経後女性>閉経前女性>男性の順で強くなり、さらにエストロゲン欠乏による骨吸収亢進も相まって、特に閉経後女性では早期からの介入を考慮する必要がある。

図1:CKD初期におけるリン負荷に伴う骨、ミネラル代謝異常の成立機序

図2:CKDの進行に伴うミネラル代謝パラメーターの変化

骨代謝動態を把握するために測定する血清骨代謝マーカーは、腎機能低下によって血清中に蓄積しない骨型アルカリホスファターゼ(BAP)や酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ(TRACP)-5bなどを選択すべきである。

保存期CKDでは血液中へのリン負荷が、CKDの増悪、CKD-MBD発症の端緒となるため、経口リン摂取量の制限、および最近保険承認された炭酸ランタンなどのCa非含有型経口リン吸着薬の早期投与を念頭におく。

骨に直接作用して骨量低下を抑制する骨作動薬は腎機能低下によって使用できる薬剤の種類は限定されるため、CKD病期によって投与に注意する必要がある(表1)。

分類 一般名 腎不全 透析 投与注意
活性型ビタミンD アルファカルシドール、カルシトリオール A A 病態に応じ使用量変更
エルデカルシトール B B 血清Ca上昇に注意
ファレカルシトリオール C B 高Ca血症・尿管結石に注意
カルシトニン エルカトニン、サケカルシトニン A A  
ビスホスホネート エチドロネート C C  
アレンドロネート B C Ccr<35 ml/minは回避
リセドロネート B C Ccr<30 ml/minは禁忌
ミノドロネート B B 重篤な腎障害は慎重投与
抗RANKL抗体 デノスマブ B C 重度の腎障害は低Ca血症を起こす恐れが高い
SERM ラロキシフェン B B 慎重投与
バセドキシフェン B B 慎重投与
PTH テリパラチド B B 慎重投与
CKDステージG1~2
  1. この時期では保険で測定可能な血清PTH, 1,25(OH)2D, リンは異常値とならず、測定する必要はない。リン負荷を示す血清FGF-23上昇が見られ、その測定は有用ではあるが保険適用はない。
  2. 非CKD患者と同様の骨粗鬆症治療が推奨されている(1A)。特に閉経後女性や腎炎でのステロイド投与例では骨粗鬆症治療薬の投与を考慮する。
  3. 骨密度がT score<-2.5の骨粗鬆症患者で治療適応となる。
  4. ステロイド投与時にはプレドニン換算で1日量5 mg以上を3ケ月以上投与する場合、ビスホスホネートの予防投与が必要となる。ただし将来的に妊娠可能性のある女性については他の薬剤の投与を考慮する(日本骨代謝学会:ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療のガイドライン)。
CKDステージG3~5
  1. 血清Ca、リン、PTH、アルカリフォスファターゼ(ALP)活性のモニターが推奨される(1C)。
  2. 骨代謝マーカーとして、血清マーカーのみが有用であり、その中でも腎機能低下による血清蓄積の見られる骨由来コラーゲン派生ペプチド(NTX, CTX, DPDなど)の測定有用性は低い(2C)。BAP測定は有用(2B)であり, 本邦ではTRACP-5bの測定が有用である(私見)。
  3. 血清Ca・リンの測定間隔は、ステージG3では6-12ヶ月毎、ステージG4で3-6ヶ月毎、ステージG5で1-3ヶ月毎での測定が妥当とされる。
  4. 血清PTHの測定間隔は、ステージG3では初期値とCKD進行によって、ステージG4で6-12ヶ月毎、ステージG5で3-6ヶ月毎での測定が妥当とされる。PTH正常例でも低骨密度の患者では非CKD患者と同様の骨粗鬆症治療が望ましい(2B)。
  5. 血清ALP活性はステージG4-5で12ヶ月毎、PTHの上昇例ではより頻回な測定が妥当とされる。BAP, TRACP-5b測定では、基礎値を測定したのちに骨作動薬(Table 1)投与後3~6ケ月後に同一項目を再測定して薬剤効果を判定する。
  6. G3-5Dにおいての骨密度検査は、骨折リスクを判断するうえでその有用性は低いとされた(2B)。ただし一方で、その有用性を示すメタ解析の結果も報告されており(文献1)、今後のエビデンスによっては修正される可能性もある(私見)。
  7. CKD-MBDの生化学的異常がある場合、骨生検が適応(2C)とされるが、実際の施行は困難である。
  8. G3-5D患者において、腹部側面単純X線写真は血管石灰化、心臓超音波検査は弁石灰化の有無の検索にCTの代替検査として用いることが出来る(2C)。
  9. G3-5DにおけるCKD-MBDの治療目標は、まず血清リンの正常化(2C), 次いで血清Caの正常化(2D)が望ましく、これらが満たされたのちにPTHの正常化を目指す。
  10. 血清リン上昇例で、過度なリン・蛋白制限のみの治療では栄養不良をきたして、期待される臨床効果を得られないとの報告もあり、リン吸着薬投与との併用でリンコントロールを目指すのが基本となる(私見)。
  11. 血清リン上昇例では、Ca含有性に比べて血管石灰化や骨代謝回転過剰抑制を起こしにくいCa非含有型リン吸着薬を基本治療薬として使用する。特に血清Ca上昇やPTH抑制による骨代謝回転抑制がみられる患者ではCa非含有型リン吸着薬(保存期では炭酸ランタンのみが現在保険適応)の選択は必須となる。
  12. 高リン血症がリン吸着薬抵抗性で、高Ca血症を起こす患者ではビタミンD製剤の投与量を制限する(1B)。
  13. G3-5Dにおいては、ビタミンD欠乏の有無チェックのため血中25(OH)D測定が望ましいとされる(2C)。ビタミンD欠乏のcut-off値については異論があるが、25(OH)Dが20ng/ml以下ではビタミンD欠乏症と判定し天然型ビタミンD剤のサプリメント投与や活性型ビタミンD剤の投与が望ましい(2C)。活性型ビタミンD剤の投与にあたっては、高Ca血症を避けるため血清Caのモニターが必須となる。
ステージG5D(透析期)
  1. G5DでのPTH上昇例では、カルシミメティクス・ビタミンD製剤のどちらか、もしくは併用を用いるのが望ましい(2B)。
  2. G5Dでは、血清Ca, リン、PTHのいずれもが上昇している場合には、シナカルセト投与を選択して、PTH抑制を介して3者とも改善を図りうる。
  3. 実際の投与法についてはJSDT CKD-MBDガイドライン(文献2)を参照すること

註:文章末尾括弧内の1Aから2DはKDIGOガイドラインによる推奨の強度(1:強、2:弱)とエビデンス等級(A~D)を示している。

表2 ガイドラインに基づくCKD各ステージ別のCKD-MBD治療

CKDステージ 定期検査項目 食事療法* 高リン血症治療* 骨作動薬
(Ca値を基準値以内に維持すること)
VD製剤 その他
G1-G2 骨密度検査 高血圧あれば減塩6g/日未満 不要 天然型・活性型 骨密度低下ある場合・または高リスク患者
G3 Ca, P, PTH 減塩6g/日未満・
蛋白制限0.8-1.0g/Kg
通常は不要 天然型・活性型(Ca値を測定して投与量を調整) いずれも、このステージにおけるエビデンスに乏しいが、投与は可能。
G4-G5 Ca, P, PTH, ALP 減塩6g/日未満・
蛋白制限0.6-0.8g/Kg
P値を基準値内に保つ・リン吸着薬の使用 天然型・活性型(Ca値を測定して投与量を調整) エチドロネート、リセドロネートは禁忌で、その他も慎重投与。いずれもエビデンスには乏しい。

CKD診療ガイド2012に基づく治療法

註:各ステージの診療方針は全ての分野で明確な推奨がなされている訳ではない。それはエビデンスが必ずしも全ての分野で十分ではないためである。ここではKDIGO CKDガイドラインと日本における適応を目的として日本腎臓学会が作成したCKD診療ガイド2012を基に、日常診療に最も適切と思われる指針を表にした(腎臓ネット)。

参考文献

  1. Jamal SA et al. Low bone mineral density and fractures in long-term hemodialysis patients: a meta-analysis. Am J Kidney Dis 2007;49:674-81.
  2. 日本透析医学会. 慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常の診療ガイドライン. 透析会誌. 2012;25(4):P301-56.

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第1章:chapter 1
KDIGO CKDガイドラインとCKD診療ガイド2012
副題:リスク解析に基づく新しい定義と分類
今井圓裕(中山寺クリニック院長)
第2章:chapter 2
KDIGO CKDガイドラインとCKDにおけるミネラル骨異常症(CKD-MBD)の診療
稲葉雅章(大阪市立大学大学院医学研究科 代謝内分泌・腎臓病態内科学教授)
第3章:chapter 3
KDIGOガイドラインにみるCKDにおける総体的な治療戦略の立て方
塚本雄介(板橋中央総合病院副院長)