緒言

緒言

監修:東原英二(杏林大学医学部多発性嚢胞腎研究講座教授)

ADPKD治療の新しい展開 監修:東原英二、望月俊雄、西尾妙織、武藤 智、堀江重郎

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緒言
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第1章:chapter 1
初めてのADPKD治療薬
第2章:chapter 2
ADPKDの診断と併存症の管理
第3章:chapter 3
多発性嚢胞腎の画像診断と嚢胞障害の治療法
第4章:chapter 4
KDIGOエディンバラ会議で何が話されたか?
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緒言

トルバプタンは大塚製薬が開発したバゾプレシンV2受容体(V2R)拮抗薬で、開発当初は利尿薬、低Na血症治療薬としての役割が期待されていました。ところが、トルバプタンが常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)の治療に役立つ可能性が動物モデルで判り、論文発表されたのが2003年でした。

2004年の米国腎臓学会時に、長年ADPKDの研究に携わってきたグランサム先生をはじめとして、米国・欧州・日本からADPKD研究者が集まりトルバプタンの臨床開発方針を検討する会議がありました。その後2007年から、3年間かけてADPKDに対するトルバプタンの有効性と安全性を検討する国際共同試験(TEMPO試験)が行われました。2012年2月にTEMPO試験が終了し、腎臓容積の増大速度を約50%、腎機能(eGFR)の低下速度を約30%抑制する事が示され、2012年2月には雑誌 (Torres VE, et al. N Engl J Med. 2012; 367:2407)に結果が掲載されました。また、それまで低Na血症などに使用してきた時には認識されていなかった肝障害があることが判明しました。

大塚製薬は米国FDAにADPKDに対する適応申請をし、2013年夏にFDA審査会が開かれました。「トルバプタン群での脱落者が23%でプラセボ群14%より多く、トルバプタンに有利な結果が出た可能性を否定することはできない」(missing data problem)をFDAは強く指摘し、承認しないという残念な決定でした。

しかし、トルバプタンをはじめとしたADPKD治療薬開発の高まりを受け、2014年1月、エディンバラに世界のADPKD研究者と患者代表が集まり治療ガイドラインを討議するKDIGOコントロバーシー・カンファレンスが持たれました。討議結果は本年中にKidney Internationalに掲載される予定です。このような流れの中で、2014年3月には日本においてトルバプタンの適応拡大が承認されたことは非常に意義のあることだと考えています。

ADPKDでは、腎機能の進行性低下のみならず、腎臓や肝臓の進行性の容積増大があり、患者の「生活の質」(QOL)は大変障害されています。トルバプタンは肝臓容積の増大は抑制しないと考えられますが、腎臓容積の増大を抑制します。腎臓容積増大に関係する疼痛や血尿・感染も緩和することがTEMPO研究で示され、QOL改善面でも期待されます。

しかし、私たちはトルバプタンの限界もよく理解する必要があります。腎臓の増大と腎機能の低下を完全に抑制するものではありません。バゾプレッシンの作用を継続的に抑制するために、1日2回の服用を継続する必要がありますが、そのため多尿になり水分の補給が不可欠です。飲水が不十分だと、脱水や高Na血症になりえます。脱水による腎機能低下、血栓塞栓症、意識障害が起こりえます。その他、望ましくない副作用として肝機能障害(5~6%)、尿酸値の上昇があります。多尿によるQOLの障害という面もあります。3年間のTEMPO試験では、服薬中止原因として多尿による口渇や頻尿が8.3 %ありました。

今回の適応拡大に当たり、トルバプタンの適応として、腎臓容積が750ml以上、腎臓容積増大速度が概ね5%以上という条件が付いています。またeGFRが15ml/min/1.73m2未満の患者さんには禁忌とされています(そのほか、いくつかの禁忌条件があります)。処方する医師にはwebでの学習が必要とされ、また投与開始時には入院指導が必要です。脱水・肝障害の早期発見の為に毎月の血液検査が必要です。これらは、トルバプタンが事故なく、多発性嚢胞腎の治療薬として日本で定着する為には必要な対応であると考えます。

世界で初めて、多発性嚢胞腎の薬物治療が日本で始まる事の意義と責任を自覚しなければならないと考えています。事故なく、安全にトルバプタン使用が日本で始まり、この薬剤が多発性嚢胞腎の治療薬として定着する事を願っています。

contents

緒言
緒言
東原英二(杏林大学医学部多発性嚢胞腎研究講座教授)
第1章:chapter 1
初めてのADPKD治療薬
望月俊雄(東京女子医科大学第四内科講師)
第2章:chapter 2
ADPKDの診断と併存症の管理
西尾妙織(北海道大学大学院医学研究科第2内科助教)
第3章:chapter 3
多発性嚢胞腎の画像診断と嚢胞障害の治療法
武藤 智(帝京大学医学部泌尿器科講師)
第4章:chapter 4
KDIGOエディンバラ会議で何が話されたか?
堀江重郎(順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学教授)