第1章:chapter 1

初めてのADPKD治療薬

監修:望月俊雄(東京女子医科大学第四内科講師)

ADPKD治療の新しい展開 監修:東原英二、望月俊雄、西尾妙織、武藤 智、堀江重郎

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緒言
緒言
第1章:chapter 1
初めてのADPKD治療薬
第2章:chapter 2
ADPKDの診断と併存症の管理
第3章:chapter 3
多発性嚢胞腎の画像診断と嚢胞障害の治療法
第4章:chapter 4
KDIGOエディンバラ会議で何が話されたか?
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1.トルバプタンの薬効機序とエビデンスに見る効果

1.ルバプタンの薬効機序

ADPKDでは、PKD1あるいはPKD2遺伝子変異により尿細管細胞へのカルシウム流入が阻害され、その結果、細胞内で増加するサイクリックAMP(cAMP)が嚢胞の増大、嚢胞液の貯留を促進する。さらにバソプレシンV2受容体(V2R)がバソプレシンで刺激されるとcAMPが産生され、嚢胞形成を促進する(図1)。

図1.

ADPKDの病態とトルバプタンの薬効機序(本文参照)

V2R拮抗薬であるトルバプタンは、V2受容体を選択的に阻害し、cAMPの産生を抑制することから、腎嚢胞の増大を抑制する効果が期待される。

2.エビデンスにみるトルバプタンの効果

2012年に報告された第Ⅲ相国際共同治験(TEMPO3/4試験)では、トルバプタンは、腎機能が保たれている、両腎容積が750ml以上のADPKDにおいて、腎容積の増加と腎機能低下を抑制する効果が示された(Torres VE, et al. N Engl J Med. 2012;367:2407-18. )。

対象

「クレアチニンクリアランス(Cock-Croft換算式による)が60mL/min以上」かつ「両腎容積が750ml以上」のADPKD患者、計1,445人。

結果
  • 実薬群の腎容積増加率が2.8%/年(プラセボ群5.5%/年)であり、トルバプタンは腎容積の増加を有意に抑制した。
  • 実薬群のeGFR変化率が-2.72ml/min/1.73m2/年(プラセボ群-3.70ml/min/1.73m2/年)であり、腎機能低下の抑制についても有効性が示された。
  • より腎機能低下の抑制効果が顕著であったのは、35歳以上の群、高血圧を合併する群、両腎容積が1500mlを越える群であった。

2.ADPKDにおける適応とその投与法

1.トルバプタンのADPKDにおける適応
適応

「腎容積が既に増大しており、かつ、腎容積の増大速度が速いADPKD」

  • 具体的には両腎容積が750ml以上で、腎容積増大速度が概ね5%/年以上とされている。
  • 腎機能についてはeGFR 15ml/min/1.73m2/年未満が禁忌とされており、CKDステージG4まで投与可能である。しかし、治験で行われた患者はCock-Croft推算式でクレアチニンクリアランスが60mL/min以上であり、eGFR45ml/min未満(CKDステージG3b~G4)では有効性および安全性は確立していないので、注意を要する。
禁忌

eGFR 15ml/min/1.73m2/年未満、口渇を感じない患者、水分摂取が困難な患者、高Na血症の患者、慢性肝炎、薬剤性肝機能障害等の肝機能障害のある患者、妊婦・妊娠している可能性のある患者。

適応を考える上での留意点

経済的な配慮(薬価が高価である)とともに、生活環境の変化に対応できるかどうかを十分に考慮すべきである。通勤、仕事などの中でトイレに行けるかどうか、水分補給をできる環境かどうかも投与開始前に十分に確認しておく必要がある。

2.トルバプタンの投与法

入院下での投与開始、処方医師によるe-learningの受講、患者の同意取得が必須である。

投与方法

1日2回、1日60mg(朝45mg、夕15mg)で開始し、忍容性があれば、1週間以上間隔をおいて、1日90mg(朝60mg、夕30mg)、1日120mg(朝90mg、夕30mg)まで漸増する。

併用薬剤への注意

トルバプタンは、主として肝代謝酵素CYP3A4によって代謝されること、P糖蛋白の基質であるとともにP糖蛋白への阻害作用を有するために食品や併用薬剤について注意を要する。具体的には、グレープフルーツジュース、クラリスロマイシン、シプロフロキサシンなどは血中濃度が上がりやすい。またバルサルタン、アムロジピン、アトルバスタチンにも弱い代謝阻害作用があり、併用薬剤は全て添付文書に照らし合わせてチェックすべきである。

3.注意すべき副作用と必要な臨床検査(頻度も)、生活指導の要点

注意すべき副作用と必要な臨床検査
  • 利尿薬であるため、口渇(55.3%)、多尿(38.3%)、夜間尿(29.1%)、頻尿(23.2%)など脱水症状、尿異常に関するものの頻度が高かった。
  • 基準値上限の2.5倍を超えるALT(GPT)上昇の発現頻度が4.9%であったが、重篤な肝機能障害が発生する可能性があり、肝機能検査の実施(少なくとも月1回)が義務付けられている。
  • 投与中に高Na血症が出現する可能性があるため、血清Na濃度の測定(少なくとも月1回)も義務付けられている。
生活指導の要点

とにかく十分な水分補給を行うよう指導することである。

  • 就寝前に水分を余分に摂取し、また夜間尿ごとに水分を補充する。
  • 飲水できずに十分に水分補給ができない場合は減量あるいは休薬する。
  • 増量するときは体重変化、口渇感の持続、皮膚乾燥などの脱水症状に注意する。
  • 脱水症状がみられた場合は医師に連絡する。

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緒言
緒言
東原英二(杏林大学医学部多発性嚢胞腎研究講座教授)
第1章:chapter 1
初めてのADPKD治療薬
望月俊雄(東京女子医科大学第四内科講師)
第2章:chapter 2
ADPKDの診断と併存症の管理
西尾妙織(北海道大学大学院医学研究科第2内科助教)
第3章:chapter 3
多発性嚢胞腎の画像診断と嚢胞障害の治療法
武藤 智(帝京大学医学部泌尿器科講師)
第4章:chapter 4
KDIGOエディンバラ会議で何が話されたか?
堀江重郎(順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学教授)