第3章:chapter 3

多発性嚢胞腎の画像診断と嚢胞障害の治療法

監修:武藤 智(帝京大学医学部泌尿器科講師)

ADPKD治療の新しい展開 監修:東原英二、望月俊雄、西尾妙織、武藤 智、堀江重郎

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緒言
緒言
第1章:chapter 1
初めてのADPKD治療薬
第2章:chapter 2
ADPKDの診断と併存症の管理
第3章:chapter 3
多発性嚢胞腎の画像診断と嚢胞障害の治療法
第4章:chapter 4
KDIGOエディンバラ会議で何が話されたか?
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1.両側腎容積の推定法

ADPKDにおいては,嚢胞腎が相当の大きさまで腫大しないと腎機能の低下には反映しません。そのため進行度ならびに予後を評価する方法の一つとして腎容積の測定が注目されてきました1,2。さらに本邦では2014年3月にトルバプタンがADPKDに対して保険適応となりました。しかし全てのADPKD患者さんに対してではなく、TEMPO 3:4試験と同様に、両側腎容積≧750mLかつ年5%以上増大している患者さんが対象となっています。したがって今まで以上にADPKD診断後の腎容積測定することが患者さんの治療方針に大きく影響することになりました。

(ア) 両側腎容積≧750mLとは片側腎の長径cm×短径cmがどのくらいで推測できるか(第1次スクリーニングとして)

帝京大学医学部附属病院を受診したADPKD患者さんの腎容積を楕円計算法で測定しました。75例で検討すると、両側腎容積≧750mLの群では、片側腎長径中央値16.9 cm(範囲11.25-24.75 cm)×短径中央値10 cm(範囲6-16 cm)。それに対して両側腎容積<750mLの群では、片側腎長径中央値12 cm(範囲9.75-13.5 cm)×短径中央値6 cm(範囲5.2-7.5 cm)でした。したがってわれわれは、長径 10cm、短径 5 cmを一次スクリーニングの大まかなcut-off値として考えています。

(イ) 超音波法による腎容積計算法
  • 簡易的に腎容積を測定するには以下のような楕円計算法が一般的3,4

【腎容積= π/6 x 長さ x 幅 x 深さ】

  • 他に以下のような計算式もあります。

【腎容積= 4π/3 x(anteroposterior diameter/4+width/4)2 x length/2 5

  • 断面解析法cross-sectional approach:2cmおき横断面を測定し、体積を全て合計します3
  • 利点:簡便。コストが安い。
  • 欠点:再現性が低い。巨大腎ではモニター画面に入りきらず測定できない。
(ウ) CTによる腎容積計算法
  • いくつかの横断面をトレースして面積を計算し、測定面の間隔から体積を推定、最後に全て合計します。MRIのstereology methodsとほぼ同様 6,7
  • 利点:超音波検査よりも認識能に優れる(例えば、腎嚢胞と肝嚢胞の鑑別など)
  • 欠点:超音波と比べると利便性が低い。コストが高い。造影剤による有害事象。
(エ) MRIによる腎容積計算法
  • 断面解析法cross-sectional approach:2cmおき横断面を測定し、体積を全て合計します3(stereology methods 8)。横断面積の測定は古くはNIH imageなどの画像処理ソフトを用いてマニュアルでトレースし測定していました。その面積に測定間隔の厚みを掛けて、最後に全て合計します。
  • 自動立体法automatic stereology methods:断面解析法を、例えば3mmおきの横断面を用いて自動的に行います(例えばCRISP study)。現在最も正確と考えられていますが、コスト、手間、時間の面からまだ標準測定法とはなっていません。
  • その他にも多くの方法が報告されていますが、いずれもすぐに臨床応用可能な方法ではありません。
  • 利点:再現性が高い。腎全体の容積もMRIを用いた場合の誤差は5%未満と報告されてます 9, 10
  • 欠点:コストが高い。利便性が低い。時間がかかる。
(オ) まとめ

現在まで様々な腎容積測定方法が用いられてきましたが、いずれも一長一短で、未だ確立した測定方法はありません。したがってトルバプタンの適応となるかを判断するためだけであれば、超音波検査で長径 10 cmあるいは短径 5 cm以上ある患者さんに対してMRI検査(施設によってはCT)を行い、楕円計算法(腎容積= π/6 x 長さ x 幅 x 深さ)で容積を計算する方法が最も簡便でコストもかからず迅速に測定可能と考えられます。

2.嚢胞感染、出血の画像診断法と嚢胞感染の治療法

(ア) 嚢胞感染・出血の画像診断法
  1. 画像診断でも感染嚢胞は器質化した血腫と似ており,その特定は容易ではありません
  2. できる限り感染嚢胞を画像診断で特定することが望ましい
  3. 造影CTによる嚢胞壁増強効果を認めます
  4. MRI

嚢胞感染ではT1WI、T2WIともに高信号となります。それに対して嚢胞出血ではT1WIは高信号ですがT2WIでは低信号となることが多いようです。一度出血した嚢胞がどのくらいで信号強度がもとにもどるかは不明ですが、感染と嚢胞の鑑別に有用です。

図1:MRI T1強調画像

正常な嚢胞はT1強調画像で低信号だが感染嚢胞は高信号を示しています(黄色矢印)

図2:MRI T2強調画像

T2強調画像では正常な嚢胞でも高信号ですが、感染嚢胞ではさらに高信号を示します(黄色矢印)

拡散強調画像(DWI)(画像なし)

感染嚢胞では高信号をとる(正常な嚢胞はDWIで低信号)

5. FDG-PET/CT:最近、有用性の報告が散見されます11、が全ての感染嚢胞で有用なわけではありません。

図3 FDG-PET/CT

感染嚢胞に集積を認めることがあります。

(イ) 嚢胞感染の治療法
  1. 閉鎖腔の感染のため難治性となることがあり、再燃に注意が必要。
  2. 嚢胞感染では発熱、血尿や腰痛・側腹部痛などの自覚症状が重要です。嚢胞感染が疑われる場合には白血球やCRP、プロカルシトニンなどの炎症反応上昇を確認します。嚢胞感染と腎盂腎炎の鑑別には膿尿あるいは細菌尿の有無を尿枕査で確認することが必要です。嚢胞感染では多くの場合の膿尿・細菌尿を認めませんが厳密な鑑別診断は容易ではありません。しかし嚢胞感染であっても腎盂腎炎であっても、初期治療は抗生剤全身投与が選択されることが多く、治療方法決定の大きく影響することはありません。
  3. 薬物療法
    ・抗生剤は脂溶性の方が嚢胞内への透過性が良好。
    ・理論的にはキノロン系,マクロライド系,テトラサイクリン系が好ましい。
    ・実際には水溶性のペニシリン系,セファロスポリン系,カルバペネム系抗生剤を投与する場合も少なくありません。12
  4. 繰り返す嚢胞感染に耐性菌が原因となっていることがあり,感染が疑われる嚢胞の試験穿刺により細菌の感受性を確認し,抗生剤を再検討します。
  5. 抗生剤治療抵抗性あるいは再発を繰り返す場合には嚢胞ドレナージ術を施行した方が治癒しやすい13
  6. 治療抵抗性の場合には腹腔鏡下嚢胞開窓術,外科的開窓術,腎摘出術なども必要。ただし感染嚢胞を術中に同定することが困難な場合もあり、3次元立体モデルなどを用いた術前の確認が有用です。

図4 ADPKD患者さんの腎臓3次元立体モデル

文献

  1. Grantham JJ. N Engl J Med. 2008; 359: 1477–85.
  2. Grantham JJ, et al. Clin J Am Soc Nephrol. 2006; 1: 148-57.
  3. O’Neill WC, et al. Am J Kidney Dis. 2005; 46: 1058-64.
  4. Melissa A, et al. Clin J Am Soc Nephrol. 2009; 4: 820-9.
  5. Fick-Brosnahan GM, et al. Am J Kidney Dis. 2002; 39: 1127-34.
  6. Sise C, et al. Kidney Int. 2000; 58: 2492-501.
  7. Yamamoto T, et al. Transplantation. 2012; 93: 794-8.
  8. Cadnapaphornchai MA, et al. Clin J Am Soc Nephrol. 2011; 6: 369-76.
  9. Wolyniec W, et al. Pol Arch Med Wewn. 2008;118:767-73.
  10. Bae KT, et al. J Comput Assist Tomogr. 2000;24:614-9.
  11. Desouza RM, et al. Transplant Proc. 2009; 41: 1942-5.
  12. Sallée M, et al. Clin J Am Soc Nephrol. 2009; 4: 1183-9.
  13. Suwabe T, et al. Nephron Clin Pract. 2009; 112: c157-63.

contents

緒言
緒言
東原英二(杏林大学医学部多発性嚢胞腎研究講座教授)
第1章:chapter 1
初めてのADPKD治療薬
望月俊雄(東京女子医科大学第四内科講師)
第2章:chapter 2
ADPKDの診断と併存症の管理
西尾妙織(北海道大学大学院医学研究科第2内科助教)
第3章:chapter 3
多発性嚢胞腎の画像診断と嚢胞障害の治療法
武藤 智(帝京大学医学部泌尿器科講師)
第4章:chapter 4
KDIGOエディンバラ会議で何が話されたか?
堀江重郎(順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学教授)