第4章:chapter 4

KDIGOエディンバラ会議で何が話されたか?

監修:堀江重郎(順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学教授)

ADPKD治療の新しい展開 監修:東原英二、望月俊雄、西尾妙織、武藤 智、堀江重郎

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緒言
緒言
第1章:chapter 1
初めてのADPKD治療薬
第2章:chapter 2
ADPKDの診断と併存症の管理
第3章:chapter 3
多発性嚢胞腎の画像診断と嚢胞障害の治療法
第4章:chapter 4
KDIGOエディンバラ会議で何が話されたか?
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KDIGOは、Kidney Disease: Improving Global Outcome の頭文字を取った、2003年に設立された国際非営利団体で、腎臓病についての、エビデンスに基づく診療ガイドラインの作成を国際的な共同行動とすることを目標としている。したがって国際腎臓学会とも密接な連携を行っている。KDIGOはこれまでCKD、AKI、CKD-MBD、腎移植患者のケアのガイドラインを作成しており、その内容は日本のガイドライン作成にも大きく影響している(詳細は特集26第4章参照)。

今年の1月19-20日に、英国エディンバラにおいて、KDIGOの主催によるADPKDに対してのControversy ConferenceがADPKDの専門医を対象に開催された。ADPKDは過去30年腎臓学の中でもっとも進歩があった領域であり、研究論文数は年々増加している(図)。これらの研究により、ADPKDの原因が解明され、効果のある薬剤が開発されてきた。しかしADPKDのさまざまな症状についての診療は、まだエビデンスとコンセンサスが少なく、多くの医師は経験に基づく治療を行っている。

図:ADPKDに関する医学研究の論文数

今回のKDIGOの会議はガイドラインを作成する前に、どのようなクリニカルクエスチョンが存在するか、その推奨についてのコンセンサスを得ること、また未解決の問題で、さらに研究が必要なものを抽出することを目的とした。

6つのトピック(診断、腎病変の管理、高血圧と腎機能、末期腎不全の管理、腎外病変の管理、患者支援)について各グループ9-10名の専門医が討議を行った。またこの会議には日本を含む患者団体の代表も参加した。討議された臨床的なクエスチョン (break out questions)の主なものを添付する。討議の詳細な内容については報告書が国際腎臓学会の機関誌であるKidney Internationalに今後掲載される予定である。以下に診断と患者支援に関する内容を一部紹介する。

  1. 診断では、不妊治療における、受精卵での遺伝子診断について踏み込んだ発言があり、同じヨーロッパでもイギリスでは現在臨床で受精卵の遺伝子診断を行い、PKD1,2の遺伝子変異がある場合には受精卵を母体に戻さないことが行われている。一方ドイツでは、受精卵の遺伝子診断を行うこと自体が、法律で禁止されているといった相違がみられた。ADPKDの分子標的薬であるバゾプレシンV2受容体拮抗薬トルバプタンに対する関心は高く、我が国がまず臨床をスタートできることに羨望の声が強かった。トルバプタンは腎容積の増加と腎機能低下を抑制する。ただしADPKDの腎容積の正確な測定を簡便に行う方法はまだない。腎容積を診療のバイオマーカーとする場合には、汎用ソフトウェアの開発が必須である。腎外病変では、肝嚢胞への有効な治療が依然乏しいことが、大きな問題である。
  2. 患者の支援については、まずADPKDの診断を得た時に、医療者が患者にいかにアプローチするかが討議された。この中で日本腎臓学会HPにある、ADPKDについての漫画(manga)が評価されていた。また患者にとって、疼痛のコントロールが大きな問題であることを再認識した。腎血管周囲に存在する交感神経の焼灼が疼痛緩和に有効であったという報告の一方で、疼痛に対して直ちに鎮痛薬を投与するのでなく、理学療法や、患者への傾聴などの心理療法により症状がかなり改善するという患者からの報告もあった。
  3. 患者の生活の質(QOL)あるいは患者の負担度 (Burden of disease) をどのように評価するかについても討議された。厚労省の進行性腎障害調査研究班で行った肝嚢胞についてのQOL調査に高い関心が集まった。
  4. 遺伝難病であるADPKDの診療については、腎臓専門医のみならず、ADPKDの病変がある臓器の専門医に加え、疼痛緩和医療の専門医、遺伝カウンセラー、精神科医、心理療法士、栄養士など多職種によるアプローチと、患者グループによるピア支援が必要であることが強調された。
添付資料

Breakout Session Questions (取り急ぎ討議されるべき臨床上の問題)

KDIGO HPにおいて詳細は閲覧できる(英文)

http://kdigo.org/home/conferences/adpkd/

1.診断
  1. 画像診断はいつ必要か。生体腎移植のドナー候補を決定するための方法は?
  2. いつ遺伝子診断を行うか
  3. 将来的な遺伝子診断の可能性は 遺伝子診断で病態を予測できるか?
  4. 着床前診断は行うべきか?
  5. 小児の遺伝子診断はいつ行うべきか?
2.腎病変の管理
  1. 腎容積は臨床に必要なバイオマーカーか?どの方法で測定するか
  2. 腎疼痛の治療法は?
  3. 腎嚢胞感染の治療法は?
  4. 患者のQOLをどう評価するか?
  5. 尿路結石を予防する薬剤は?
  6. 腎臓癌のスクリーニングは必要か?
3.高血圧と腎機能
  1. 降圧療法の基準は?
  2. 腎機能はどう評価するか?
  3. アンギオテンシン阻害薬が降圧薬のファーストチョイスか?
  4. 水分と食塩の摂取量をどう考えるか?
4.終末期腎不全の管理
  1. 人工透析と腹膜透析それぞれのADPKD特有の問題点は何か?
  2. 腎移植後のADPKD特有の問題点は?
  3. 透析、移植後の固有腎のフォローアップの方法は?
  4. 透析中の至適な血液データーは?
  5. ADPKD腎をドナーとできるか?
5.腎外病変の管理
  1. 脳動脈瘤のスクリーニングは必要か?
  2. 未破裂動脈瘤はいつ治療する?
  3. 嚢胞肝はいつ治療するか?
  4. 肝嚢胞感染の診断と治療
6.患者支援
  1. 診断を最初に告知するときの内容は?
  2. 家族計画をどのように考えるか?
  3. 患者がバイアスの少ない、エビデンスに基づく支援を受けるには?
  4. 推奨される生活様式は?
  5. 疼痛管理の方法は?
  6. 趣味やスポーツで制限されるものは?
  7. 子供にいつ、そしていかに病気を伝えるか?
  8. 病気が家計に及ぼす影響は?
  9. 患者への心理的な支援についてのガイドラインは必要か?
  10. PKDセンターを作ることは患者にとって有益か
  11. 患者が報告する臨床評価を行うか?
  12. 嚢胞肝についてどのように患者に伝えるか?
  13. 脳動脈瘤のスクリーニングと治療についてどのように患者に伝えるか
  14. 腎臓、肝臓以外の臓器の嚢胞についてどのように患者に伝えるか?

contents

緒言
緒言
東原英二(杏林大学医学部多発性嚢胞腎研究講座教授)
第1章:chapter 1
初めてのADPKD治療薬
望月俊雄(東京女子医科大学第四内科講師)
第2章:chapter 2
ADPKDの診断と併存症の管理
西尾妙織(北海道大学大学院医学研究科第2内科助教)
第3章:chapter 3
多発性嚢胞腎の画像診断と嚢胞障害の治療法
武藤 智(帝京大学医学部泌尿器科講師)
第4章:chapter 4
KDIGOエディンバラ会議で何が話されたか?
堀江重郎(順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学教授)