CKDにおける血糖コントロールの実際

監修:大阪市立大学大学院医学研究科・代謝内分泌病態内科学 森 克仁

1.CKD stage G4以上の腎機能低下時における経口血糖降下薬の適応

腎不全時には経口血糖降下薬(OADs)は薬物代謝の遅延、血糖低下作用を示す代謝産物の排泄低下などにより低血糖のリスクが高く、その多くが慎重投与あるいは禁忌である。特にスルホニル尿素薬(SU薬)は重篤な遷延性低血糖を来す可能性があるため、腎機能障害症例ではCKD診療ガイド2012でも禁忌となっている。ビグアナイド薬(メトホルミン)は乳酸アシドーシス、チアゾリジン薬(ピオグリタゾン)は体液貯留の問題等から禁忌であり、使用可能なインスリン抵抗性改善薬はない。2014年に上市されたSGLT2阻害薬は効果が期待できないため投与しない。

図1)CKD stage G4-G5で使用できる経口血糖降下薬
経口血糖降下薬 一般名 商品名 常用量 30 ≦ Ccr < 50 Ccr < 30
HD (透析)
速効型
インスリン分泌促進薬
ミチグリニド グルファスト® 15-30mg 慎重投与
レパグリニド シュアポスト® 0.75-3mg
DPP-4阻害薬 シタグリプチン ジャヌビア® 50-100mg 25-50mg 12.5-25mg
グラクティブ®
ビルダグリプチン エクア® 50-100mg 50mg  慎重投与
アログリプチン ネシーナ® 25mg 12.5mg 6.25mg
リナグリプチン トラゼンタ® 5mg
テネリグリプチン テネリア® 20-40mg
アナグリプチン スイニ―® 100-200mg 100mg
サキサグリプチン オングリザ® 5mg 2.5mg
α- グルコシダーゼ阻害薬 アカルボース グルコバイ® 150-300mg 慎重投与
ボグリボース ベイスン® 0.6-0.9mg
ミグリトール セイブル® 150-225mg

※ CKD診療ガイド2012・各薬剤添付文書より改変・作成

透析症例を含めたstage G4以上の症例で使用可能なOADsを図1に示す。

DPP-4阻害薬はstage G4以上でも有効な血糖低下作用を示す。

単剤では低血糖リスクが少なく、一日1~2回と服薬アドヒアランスの面でも有効である。

リナグリプチンとテネリグリプチンは用量調整も不要である。

α-グルコシダーゼ阻害薬も低血糖はきたしにくいが、毎食直前の内服の必要性、消化器症状が出現する可能性があり、高齢者や開腹手術歴のある症例には注意が必要である。

速効型インスリン分泌促進薬のうちミチグリニド・レパグリニドは、その作用機序より低血糖に注意する必要があるが、慎重投与可能である。

α-グルコシダーゼ阻害薬と同様に毎食直前投与である。特徴として、レパグリニドにはSU薬と同程度の血糖低下作用が期待でき、血糖コントロール不良例に有効な場合がある。

血糖コントロールが極めて不安定な症例以外は、月1回のHbA1cでの評価で十分と思われるが、赤血球造血刺激因子製剤使用時、特に腎性貧血の血液透析症例ではグリコアルブミン(GA)での血糖コントロール評価を考慮する。

2.インスリン療法の適応

腎不全で使用可能なOADsにて十分な血糖コントロールが得られない場合、インスリン療法の導入を考える(図2)。①(空腹時血糖高値症例)OADsで食後高血糖は比較的コントロールされているが空腹時血糖が高値の症例では、持効型インスリン製剤1日1回の導入を考慮する。血糖自己測定(SMBG)で空腹時血糖値を参考に用量調整を行う。②(食後血糖高値症例)空腹時高血糖は明らかでないが、食後血糖が高値の症例では、毎食直前の超速効型インスリン製剤1日3回での導入を検討する。SMBGで食後血糖をモニターしながら用量調整を行う。従来頻用されていた混合型インスリン製剤1日2回での導入もあまり厳格な血糖コントロールを必要としないケースでは考慮される。血糖コントロールが不十分な場合、図2に示すように、最終的に強化インスリン療法にステップアップしていく。

図2)CKD患者におけるインスリン療法適応

OADsと同様に月1回のHbA1c、あるいはGAにて血糖コントロール状況を評価する。インスリン使用時にはSMBGが保険適応となるため、血糖チェックはより容易となる。

血糖コントロール目標値には明確なエビデンスはない。CKD stage G4以上では心血管疾患などの合併も多く、患者背景を考慮した血糖コントロールの個別化が重要である。ただし比較的若く、低血糖リスクの少ない症例では、糖尿病学会の血糖コントロール目標HbA1c 7.0%未満を目指して良いと考えられる。腎性貧血の明らかな症例や血液透析症例では上述のようにGAでの評価も検討する。蛋白尿が著明でGAも参考にならない症例では、空腹時・随時・食後血糖値を参考にして血糖コントロールを行うが、極めて困難なケースもあり、糖尿病専門診への紹介を勧める。最近では糖尿病透析予防外来を行っている施設もあり、専門的な診療も期待できる。

3.CKD stage G4以上の腎機能低下時における食事療法・運動療法

CKD stage G4とG5は糖尿病性腎症病期分類で4期、CKD stage G5Dは5期に該当する。したがって食事療法・運動療法をまとめると図3のようになる。糖尿病CKDでは非糖尿病CKDに比較し、血糖コントロールの必要性があるため、摂取エネルギー量を意識することになるが、実際には推奨されるエネルギー量には差がない。身体活動量が軽労作(25~30)、普通の労作(30~35)、重い労作(35~)(kcal/kg理想体重/日)であり、肥満症例では糖尿病の有無にかかわらず、(20~25)(kcal/kg理想体重/日)にしてもよい、とされている。

運動療法に関しては、進展した腎不全症例では積極的にすすめられず、体力を維持する程度にとどめる。CKD stage G4以降での積極的な運度療法は、運動負荷による腎機能悪化、蛋白尿増加、心血管イベント誘発リスクなどがあるため、個別に慎重に検討する必要がある。

図3)CKD stage G4以上の腎機能低下時における食事療法・運動療法
CKD
重症度
分類
糖尿病
腎症病期
分類
食事療法 運動療法
総エネルギー量
kcal/kg 体重/日
たんぱく質
g/kg 体重/日
食塩
g/日
カリウム
g/日
G4
G5
4期 25~35 0.6~0.8 6g未満 < 1.5 運動制限
散歩やラジオ体操は可
体力を維持する程度の運動は可
G5D 5期 HD 30~35 0.9~1.2 6g未満 < 2.0 原則として軽運動
過激な運動は不可
PD 30~35 0.9~1.2 PD除水量
(L)×7.5+尿量
(L)×5(g)
原則
制限せず

※ 糖尿病治療ガイド 2014-2015(日本糖尿病学会 編・著)より改変・作成

Contents

緒言:TOP
緒言
稲葉 雅章(大阪市立大学大学院医学研究科代謝内分泌病態内科学)
第1章:Chapter 1
CKDにおける血糖コントロールの実際
森 克仁(大阪市立大学大学院医学研究科・代謝内分泌病態内科学)
第2章:Chapter 2
CKD血糖コントロールのQ&A
馬場園 哲也(東京女子医科大学 糖尿病センター内科)
第3章:Chapter 3
CKDにおける糖尿病治療のエビデンス
阿部 雅紀(日本大学医学部 腎臓高血圧内分泌内科)

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