CKD血糖コントロールのQ&A

監修:東京女子医科大学 糖尿病センター内科 馬場園哲也

Q1.
インスリン分泌能を知るのに、空腹時血中C-ペプチド値および24時間尿中C-ペプチド排泄量の測定は腎機能が低下しているCKD患者で有効ですか?

なお腎機能正常者では前者が0.5ng/ml以下、後者が20μg/日以下であればインスリン依存状態と判定します(糖尿病治療ガイド2014-2015)。

A1.

高血糖刺激によって,膵β細胞内でインスリンの前駆体であるプロインスリンが合成され,そのプロセッシングにより,Cペプチドはインスリンと等モル比で血中に放出されます.そのためCペプチドの血中濃度あるいは尿中排泄量は,膵β細胞のインスリン分泌の指標として,糖尿病診療で広く用いられています.ただしCペプチドの分子量が約3,000であることから,GFRの低下によりその血中濃度が上昇します[1].従って,腎機能が低下したCKD患者において,血中あるいは尿中Cペプチドでインスリン分泌能を評価することには問題があります.

なお,インスリン分泌が廃絶した1型糖尿病患者では,末期腎不全に至っても血中Cペプチドは感度以下であることから,インスリン分泌が高度に障害あるいは廃絶しているかどうかの判断には使用することができます.

Q2.
インスリン抵抗性の指標として、空腹時血中インスリン値およびHOMA-R(=空腹時インスリン値(μU/ml)×空腹時血糖値(mg/dl)/405)は腎機能が低下しているCKD患者で有効ですか?

なお腎機能正常者では1.6以下の場合正常、2.5以上の場合にインスリン抵抗性があると判定します(糖尿病治療ガイド2014-2015)。

A2.

CKD患者でインスリン抵抗性をきたすことは古くから知られており[2],腎機能低下に伴いHOMA-Rが上昇するとの報告もみられます[3].一方膵β細胞から膵静脈血中に分泌されたインスリンは,門脈を経由し肝臓でその約40~50%が取り込まれて代謝され,その後大循環を経由して腎でも排泄・分解されます.そのため腎機能低下に伴い血中のインスリン値も上昇し,そのことがHOMA-R高値と関連する可能性もあり,CKD患者におけるHOMA-Rの評価には注意が必要です.

Q3.
「HbA1cやグリコアルブミンは貧血や低アルブミン血症があるとき、血糖の管理状態を正確に反映しないため、その評価に注意を要する」とCKD診療ガイド2012にあります。どのように注意して評価したら良いでしょうか?

A3.

CKD患者では,主として赤血球寿命の短縮による腎性貧血や,その治療に用いられる赤血球造血刺激因子製剤(erythropoiesis stimulating agent: ESA)の投与により,HbA1cが低下することは周知の通りです[4].そのためCKD患者におけるHbA1c値は,血糖コントロールを過小評価することになります.

一方 グリコアルブミン(GA)は,赤血球寿命やESA投与の影響を受けないことから,日本透析医学会「血液透析患者の糖尿病治療ガイド2012」[5]においても,血液透析患者(CKDステージ5D)における,HbA1cに代わる血糖コントロール指標として推奨されています.しかし透析導入前の糖尿病性腎症患者では,多くがネフローゼ領域の高度蛋白尿を伴っており,その場合,血中アルブミンの半減期が短縮するためGAは低値となり,やはり血糖コントロールが過小評価されます[6].従って,HbA1c,GAとも,透析導入前の糖尿病性腎症患者における,過去の平均血糖値を反映する指標として用いることは,適切と言えません.

加えて,この時期の糖尿病患者における,HbA1cおよびGAと腎・生命予後との関連についてもエビデンスが少なく,またCKD患者では低血糖を起こしやすいことから,これらの目標値の設定も困難です.

Q4.
血液透析の血糖値に対する影響につき、何を注意したら良いですか?

A4.

現在使用可能な血液透析液のブドウ糖濃度が0~150 mg/dLであることから,透析開始時に高血糖を認める場合でも,血糖値は透析開始後透析液への拡散により自然に低下します[5].そのため,インスリン使用患者では透析中に低血糖を起こす危険があり,患者によっては透析日のインスリン量の調節が必要です[5]

Q5.
血液透析患者で食後2時間血糖が220mg/dl以上あるのにHbA1Cが6未満(NGSP)の場合があります。この場合の治療の適否はどうですか?

A5.

上述したように,一般に腎不全ではHbA1cが低下することから,6%未満のHbA1cで血糖コントロールが良好と判断することはできません.GAや頻回の血糖測定によってコントロール状況を評価し[5],糖尿病治療の必要性や使用する糖尿病薬の選択を考慮する必要があります.

Q6.
インスリンを投与している血液透析患者で午前9時透析開始時の血糖値が68mg/dlですが、低血糖症状はありません。50%ブドウ糖20mlを投与すべきでしょうか?なお朝食は2時間前にいつもの様に摂取しています。

A6.

透析導入に至った糖尿病患者では,低血糖時でも典型的な低血糖症状を欠き,急激に意識消失に陥る場合も少なくありません.「血液透析患者の糖尿病治療ガイド2012」[5]では,目安として,血液透析開始時の血糖値が60 mg/dL未満の場合,経口摂取が可能であれば5~10gのブドウ糖を摂取させることが推奨されています.意識がなく経口摂取が不可能な場合には,50%グルコース注射液20 mL(10 gブドウ糖含有)を透析回路静脈側より1分間程度で注入するとされています.

Q7.
血糖コントロール目標に用いられるHbA1c (NGSP)の目標値は糖尿病治療ガイド2014-2015では「血糖正常化を目指す際の目標」を6.0%未満、「合併症予防のための目標」を7.0未満と分けています。また、KDIGO CKDガイドラインでも「微小血管障害の発症を予防し進展を抑制するために」7.0%未満としていますが、この2つの目標値はどのようにCKDでは使い分けた方が良いのでしょうか?一律に7%未満で良いのでしょうか?

A7.

上述のように,CKDを伴った糖尿病患者の血糖コントロールの指標としてHbA1cを用いることには問題があり,その目標値の設定は困難です.

Q8.
CKD stage G4A3の20年来の2型糖尿病です。尿蛋白は2g以上ありますが、HbA1Cは少なくとも過去3年間は6%未満(NGSP)です。これは糖尿病性腎症によるCKDでしょうか?

A8.

糖尿病が発症して腎症を合併し,さらにはCKD G4まで腎機能が低下するには,少なくとも10~20年以上の経過があったことが予想されるため,過去数年間の血糖コントロール状況のみで,CKDの原疾患を糖尿病か非糖尿病かを判断することはできません.網膜症,特に増殖網膜症を合併している場合には,糖尿病性腎症の可能性が高いと言えます.

Q9.
血液透析患者の2型糖尿病でインスリン強化療法を行っています。透析日と非透析日でインスリン投与量を変更すべきでしょうか?

A9.

透析前後の血糖値が低い場合には透析日のインスリンの減量を行い,低血糖を予防します.

Q10.
腹膜透析患者の2型糖尿病でインスリン療法を行っています。透析液にインスリンを混注する事は有効でしょうか?また、こうした方法を日本でとる事は認められているのでしょうか?また、どのような腹膜透析液を選択すべきでしょうか?

A10.

腹膜透析の黎明期に海外では,このようなインスリン投与が勧められていました.しかしインスリンの皮下投与で糖尿病を良好にコントロールすることが可能であることや,腹膜透析液への頻回のインスリン注入の煩雑さや腹膜炎のリスクを高めることから,あえてこのような方法を選択する必要はないと考えられます.

なお,イコデキストリン含有腹膜透析液(エクストラニール,バクスター)の使用により,血糖コントロールや脂質異常症の改善を認めたとの報告もあり[7],高糖濃度腹膜透析よりも,エクストラニールの使用が勧められます.

文献

  1. Regeur L, Faber OK, Binder C. Plasma C-peptide in uraemic patients. Scand J Clin Lab Invest 1978 38:771-775.
  2. DeFronzo RA, Alvestrand A, Smith D, et al. Insulin resistance in uremia. J Clin Invest 1981 67:563-568.
  3. Fliser D, Pacini G, Engeleiter R et al. Insulin resistance and hyperinsulinemia are already present in patients with incipient renal disease. Kidney Int 1998 53:1343–1347
  4. Shima K, Chujo K, Yamada M, et al. Lower value of glycated haemoglobin relative to glycaemic control in diabetic patients with end-stage renal disease not on haemodialysis. Ann Clin Biochem 2012 49(Pt 1):68-74.
  5. 中尾俊之,阿部雅紀,稲葉雅章,ほか.一般社団法人日本透析医学会 血液透析患者の糖尿病治療ガイド2012.日本透析医学会雑誌2013 46: 311-357.
  6. Okada T, Nakao T, Matsumoto H, et al. Influence of proteinuria on glycated albumin values in diabetic patients with chronic kidney disease. Intern Med 2011 50: 23-29.
  7. Babazono T, Nakamoto H, Kasai K, et al. Effects of icodextrin on glycemic and lipid profiles in diabetic patients undergoing peritoneal dialysis. Am J Nephrol 2007 27:409-415.

Contents

緒言:TOP
緒言
稲葉 雅章(大阪市立大学大学院医学研究科代謝内分泌病態内科学)
第1章:Chapter 1
CKDにおける血糖コントロールの実際
森 克仁(大阪市立大学大学院医学研究科・代謝内分泌病態内科学)
第2章:Chapter 2
CKD血糖コントロールのQ&A
馬場園 哲也(東京女子医科大学 糖尿病センター内科)
第3章:Chapter 3
CKDにおける糖尿病治療のエビデンス
阿部 雅紀(日本大学医学部 腎臓高血圧内分泌内科)

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