CKDにおける糖尿病治療のエビデンス

—DPP-4阻害薬のRCTとDOPPSによる最近の知見—

監修:日本大学医学部 腎臓高血圧内分泌内科 阿部雅紀

1.DPP-4阻害薬の大規模臨床試験

DPP-4阻害薬の大規模RCT

最近報告されたものにサキサグリプチンのSAVOR試験とアログリプチンのEXAMINE試験がある[1,2]。両試験ともに心血管疾患既往または心血管リスクを有する2型糖尿病を対象に、DPP-4阻害薬の心血管イベントの発生率を比較した2年間の大規模無作為化二重盲検比較試験である。結果は心血管イベントの発生率や有害事象の発現率もプラセボ群(従来治療を継続する群)と同等であり、心血管イベントを増加させないことが確認された。両試験ともCKD患者がエントリーされているのも特徴の一つである。両試験ともに、透析導入、eGFRの変化はプラセボ群と有意な差は認められなかった。

SAVOR試験 ~腎アウトカム~
  • 腎アウトカムが報告されているSAVOR試験においては、微量アルブミン尿が4426例、顕性アルブミン尿が1638例エントリーされていた。微量アルブミン尿から正常アルブミン尿へ改善した割合はサキサグリプチン群で有意に高く、微量アルブミン尿から顕性アルブミン尿へ増悪した割合はサキサグリプチン群で有意に低かった。また、HbA1cが改善した群と改善しなかった群でのアルブミン尿の変化について解析がなされたが、HbA1cの改善の有無にかかわらず、サキサグリプチン群で有意にアルブミン尿の改善が認められており、血糖降下作用から独立したものであることが示唆されている。
  • 事前に定義された腎アウトカムは血清クレアチニン値の倍化、透析導入、腎移植、死亡などであるが、サキサグリプチン群とプラセボ群に差は認めず、サキサグリプチン投与による腎機能への悪影響は少ないものと考えられる。さらに、アルブミン尿の改善効果が認められたことから、糖尿病性腎症の進展抑制につながる可能性も考えられる。
現在進行中のRCT

シタグリプチンのTECOS (Trial to Evaluate Cardiovascular Outcomes after Treatment with Sitagliptin)とリナグリプチンのCAROLINA (Cardiovascular Outcome Study of Linagliptin Versus Glimepiride in Patients with Type 2 Diabetes)の2試験が現在行われている。いずれもCKD患者がエントリーされており、その結果が期待される。

2.保存期CKD患者と透析患者を対象にしたDPP-4阻害薬の比較試験

現在わが国では7種類のDPP-4阻害薬が臨床の場で使用可能である。それぞれの薬物により代謝・排泄経路に差があるため、腎機能に応じて用量調整を必要とするものもあるため注意を要する。経口血糖降下薬と各DPP-4阻害のGFR別の用量調整について図4に示す。

図4)経口血糖降下薬 CKDステージ別の適応

DPP-4阻害薬はその効果と安全性から、透析を含めたCKD患者にも使用しやすい特徴があり、他の糖尿病治療薬に比較してもその効果と安全性について多く報告されている(表1)[4-21]。

表1)CKDまたはESKDを対象としたDPP-4阻害薬の比較試験
DPP-4
阻害薬
対象 試験期間 各群の内訳 血糖コントロール指標 腎機能, 尿蛋白, その他 有害事象
シタグリプチン
[4]
中等度~高度
(ESKD含む)
54
シタグリプチン群(n=65): 中等度腎障害の場合50mg/day, 高度腎障害の場合25mg/day HbA1c: シタグリプチン群で12週目で0.6%低下, 54週目で0.7%低下. プラセボは0.2%低下, glipizideで1.0%低下 sCr値は変化なし
UACR: シタグリプチン群で195mg/mgCrの低下
低血糖: シタグリプチン群で4.6%, glipizideで23.1%
12週目までプラセボ,その後Glipizide*へ変更(n=26) FPG: シタグリプチン群で17.3mg/dLの低下、glipizide群で23.6mg/dLの低下    
シタグリプチン
[5]
中等度~高度
(ESKD除く)
54
シタグリプチン群(n=210): 中等度腎障害の場合50mg/day, 高度腎障害の場合25mg/day HbA1c: シタグリプチン群-0.8% vs Glipizide群-0.6% (NS) eGFR:シタグリプチン群 -3.9 vs Glipizide群 -3.3mL/min/1.73m2 (NS) 低血糖: シタグリプチン群6.2% vs Glipizide群17.0%%, glipizideで23.1%(p=0.001)
Glipizide群(n=212) FPG: シタグリプチン群-17.5mg/dL vs Glipizide群-24.6mg/dL (NS). BW: シタグリプチン群-0.6kg vs Glipizide群+1.2kg (P<0.001)
シタグリプチン
[6]
ESKD (HD,PD) 54
シタグリプチン群(n=129; HD=71.9%, PD=28.1%): 25mg/day HbA1c: シタグリプチン群-0.72% vs Glipizide群-0.87% (NS).   症候性低血糖: シタグリプチン群6.3% vs Glipizide群10.8%(NS).
Glipizide群(n=65; HD=64.6%, PD=35.4%) FPG: シタグリプチン群-26.6mg/dL vs Glipizide群-31.2mg/dL(NS). 重症低血糖: シタグリプチン群0% vs Glipizide群7.7%.
ビルダグリプチン
[7]
中等度~高度
(ESKD除く)
24
ビルダグリプチン群 (n=294) 50mg/day
中等度: n=165, 高度: n=129
HbA1c
中等度腎障害例ではプラセボ群に比し0.5%低下(P<0.0001)
高度腎障害例ではプラセボ群に比し0.6%低下(P<0.0001)
eGFR: 両群とも変化なし 低血糖: 2群間で有意差なし
プラセボ群(n=221)
中等度: n=124, 高度: n=97
ビルダグリプチン
[8]
中等度~高度
(ESKD除く)
52
ビルダグリプチン群(n=216) 50mg/day
中等度: n=122, 高度: n=94
HbA1c
中等度腎障害例ではプラセボ群に比し0.4%低下(P=0.005)
高度腎障害例ではプラセボ群に比し0.7%低下(P<0.0001)
eGFRの低下速度: 2群間で有意差なし 低血糖: 2群間で有意差なし
プラセボ群(n=153)
中等度: n=89, 高度: n=64
ビルダグリプチン
[9]
ESKD(HD) 24
ビルダグリプチン群(n=30): 従来の治療にビルダグリプチン50~100mg/dayを追加(平均80mg/day) HbA1c: 6.7%から6.1%へ低下(P<0.0001)
GA: 24.5%から20.5%へ低下(P<0.0001)
随時血糖値: 186mg/dLから140mg/dLへ低下(P<0.0001)
  低血糖は認めず
コントロール群(n=21): 従来の治療を継続
ビルダグリプチン
[10]
ESKD(HD) 24
単群: (n=26) 50mg/day 食後2時間値: 206mg/dLから159mg/dLへ低下(P<.001) GLP-1濃度の上昇 低血糖は認めず
コGA: 23.8%から21.2%へ低下(P<0.001) グルカゴンの低下
ビルダグリプチン
[11]
ESKD (PD,HD) 後向 ビルダグリプチン群(n=15) 50mg/day
PD: n=10, HD: n=5
HbA1c: PD患者で0.6%低下, HD患者で0.5%低下    
コントロール群(n=15)
PD: n=10, HD: n=5
GA: PD患者で3.4%低下, HD患者で2.1%低下
アログリプチン
[12]
糖尿病性腎症 後向 n=36 HbA1c: 7.07%から7.28% (NS). eGFR: 71.0から68.5 mL/min/1.73m²(NS).  
eGFR<60mL/min/1.73m²またはUACR>30mg/gCr 24週 最終投与量
6.25mg/day: n=5
25mg/day: n=31
1,5AG: 5.95μg/mLから9.40μg/mLへ改善傾向 UACR: 111.5から61.9mg/gCr (NS).
アログリプチン
[13]
CKD合併ステロイド糖尿病 - 単群(n=11)
(血管炎や慢性腎炎)
HbA1c: 5.11%から4.90%へ低下(P=0.003) eGFR: 34.8から38.8
mL/min/1.73m² (NS).
 
eGFR ≥ 50で25mg/day
30 ≤ eGFR < 50で12.5mg/day
eGFR <30で6.25mg/day
FPG: 81.8mg/dLから78.6mg/dL(NS). GLP-1濃度の上昇
  食後2時間値: 231.3mg/dLから185.8mg/dLへ低下(P=0.031). グルカゴンの低下
アログリプチン
[14]
ESKD (HD) 2年 単群(n=16), drug naïve
6.25mg/day
HbA1c: 7.1%から5.8%へ低下(P<0.05). GLP-1濃度の上昇 低血糖の報告なし
GA: 22.5%から19.6%へ低下(P<0.05).
アログリプチン
[15]
ESKD (HD) 48週 単群(n=30)
6.25mg/day
随時血糖値: 212mg/dLから156mg/dLへ低下 (P<0.0001).   重症低血糖の報告なし
HbA1c: 7.1%から6.3%へ低下(P<0.0001).
GA: 25.6%から20.7%へ低下(P<0.0001).
リナグリプチン
[16]
糖尿病性腎症
(UACR: 30-3000mg/gCr)
24週 リナグリプチン群(n=162)
プラセボ群(n=55)
全例RAS阻害薬投与下
HbA1c: プラセボ群に比し0.61%の有意な低下 ベースラインの平均UACR73.8mg/gCr, リナグリプチン群で32%の低下(プラセボ群は6%の低下) P=0.0357. UACRの低下はHbA1cや血圧の変化とは独立していた.
リナグリプチン
[17]
正常腎機能、軽度腎機能障害、中等度腎機能障害の3つのカテゴリーをリナグリプチン群とプラセボ群に分けて比較 24週 正常腎機能 (n=1212)
・リナグリプチン群(n=870)
・プラセボ群(n=342)
HbA1c: 各カテゴリーでプラセボ群に比し正常腎機能例で0.63%, 軽度腎障害例で0.67%, 中等度腎障害例で0.53%といずれも有意な低下. カテゴリー間では有意差認めず,全ての腎機能において同等の効果. eGFR: 全カテゴリーにおいてプラセボ群と比し有意差なく, 低下も認めず.  
軽度腎障害(n=838)
・リナグリプチン群(n=620)
・プラセボ群(n=218)
中等度腎障害(n=93)
・リナグリプチン群(n=68)
・プラセボ群(n=25)
リナグリプチン
[18]
高度CKD 1年 リナグリプチン群(n=68) HbA1c: プラセボ群に比し, 12週目で0.6%, 52週目で0.72%の有意な低下. eGFR: リナグリプチン群で0.8の低下, プラセボ群で2.2の低下 (NS). リナグリプチン群のインスリン使用患者79.5%含まれ, 平均67.7U/dayであったが, 52週後には平均6.2U/dayの減量が可能であった.
プラセボ群(n=65)
リナグリプチン
[19]
ESKD (HD) 24週 単群(n=21): drug naïve GA: 21.3%から18.0%へ低下 GLP-1濃度の上昇,  
プロスタグランジンE2とIL-6の有意な低下.
サキサグリプチン
[20]
CCR<50mL/min
(ESKD含む)
12週 サキサグリプチン群(n=85): 従来の治療にサキサグリプチン2.5mgを追加
・中等度腎障害(n=48)
・高度腎障害 (n=18)
・ESKD (n=19)
HbA1c: サキサグリプチン群はベースラインの8.5%から0.86%低下し, プラセボ群に比し0.44%の有意な低下.    
プラセボ群 (n=85): 従来治療を継続.
・中等度腎障害(n=42)
・高度腎障害 (n=23)
・ESKD (n=20)
中等度~高度腎障害例ではプラセボに比し有意な低下であったが, ESKD例では有意な差は認めず.
サキサグリプチン
[21]
CCR<50mL/min
(ESKD含む)
52週 サキサグリプチン群(n=42): 従来の治療にサキサグリプチン2.5mgを追加
・中等度腎障害(n=29)
・高度腎障害(n=7)
・ESKD(n=6)
HbA1c: サキサグリプチン群はベースラインから1.08%低下し, プラセボ群に比し0.73%の有意な低下. ESKDで差が認めなくなるのはHbA1cが正確な高血糖状態を反映していない可能性, ESKDの症例数が少数であった可能性が考察されている.
プラセボ群(n=50): 従来治療を継続
・中等度腎障害(n=27)
・高度腎障害(n=14)
・ESKD(n=9)
中等度~高度腎障害例ではプラセボに比し有意な低下であったが, ESKD例では有意な差は認めず.

※ Glipizide: KDOKIガイドラインでは推奨されているSU薬. 日本では未発売.

正常腎機能, eGFR > 90 mL/min/1.73m2; 中等度腎機能障害, 30≤ eGFR(またはCCR) < 50 mL/min/1.73m2 ; 高度腎機能障害, eGFR(またはCCR) <30 mL/min/1.73m2 ; ESKD, end-stage kidney disease (透析患者を示す); FPG, fasting plasma glucose (空腹時血糖値); GLP-1, glucagon like peptide-1; UACR, 尿中アルブミン排泄率.

糖尿病治療薬であるため、ほとんどの試験でHbA1cの変化を主要評価項目としている。保存期CKDを対象としている試験では総じてeGFRは対照薬と比較して低下は認められていない。また、尿中アルブミン排泄の低下を認め、血糖降下作用や血圧とは独立しており、DPP-4阻害薬の腎への直接的な作用を示唆する報告もみられる。

国外の報告ではインスリン治療中の患者にDPP-4阻害薬が追加される割合が多いため、わが国との現状とは差があることに留意すべきである。

透析患者においてもGAは有意な低下を認め、さらには低血糖の発症率も少ないことが特徴的である。

3.DOPPSによる最近の知見

1997年~2004年に実施されたJ-DOPPS (the Japan Dialysis Outcomes and Practice Patterns Study)Ⅰ、Ⅱに登録された血液透析患者の解析で、非糖尿病透析患者に比べ、糖尿病透析患者では生存率が有意に低いことが示されている(p<0.001) [22]。さらに1,569名の糖尿病透析患者をHbA1cの値を5分位に分けて多変量で調整し、総死亡リスクを検討した結果、最もHbA1cの低い群(3.3~4.9%)と比較すると、HbA1c 7.3%以上の群で2.36倍有意に高いことが報告されている。

糖尿病透析患者の血糖コントロール指標にHbA1cを用いて生命予後との関連を比較すると、以前はHbA1c値が高いほど予後不良であるとの報告が多かった。しかし最近では、「HbA1c値が低ければ低いほど良い」というわけではなさそうである。米国からの報告では、総死亡率とHbA1c値の関係はU字現象となり、HbA1c値6~7%前後が最も死亡率が低く、それ以下でも以上でも予後が悪いことが報告されている[23]。DOPPSにおいても死亡リスクはHbA1c 7.0~7.9%が最も低く、それ以上でもそれ以下でも高いことが報告された(図5)[24]。

図5)HbA1c値別の死亡率(DOPPS)

ただし、栄養障害のない群ではHbA1c値が低値でも死亡リスクはそれほど高くならないが、栄養障害が存在すると(BMI<19, 血清アルブミン<3g/dLなど)HbA1c値が低いと死亡リスクが増加する(図6)。

図6)栄養状態で補正後のHbA1c値別の死亡率(DOPPS)

ただし、透析患者のHbA1c値は腎性貧血やESA製剤、赤血球寿命の短縮などにより過小評価されるため[25]、血糖コントロール不良の患者もHbA1c低値群に多数含まれている可能性があるため、結果の解釈には注意を要する。

文献

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  2. White WB et al. N Engl J Med 2013; 369: 1327-1335.
  3. 阿部雅紀. 血糖をどうコントロールする? 海津嘉蔵 編, あなたも名医!透析まで行かせない!CKD診療. 東京, 日本医事新報社, 118-127, 2013.
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  25. Abe M et al. Nat Clin Pract Nephrol 2008; 4: 482-483.

Contents

緒言:TOP
緒言
稲葉 雅章(大阪市立大学大学院医学研究科代謝内分泌病態内科学)
第1章:Chapter 1
CKDにおける血糖コントロールの実際
森 克仁(大阪市立大学大学院医学研究科・代謝内分泌病態内科学)
第2章:Chapter 2
CKD血糖コントロールのQ&A
馬場園 哲也(東京女子医科大学 糖尿病センター内科)
第3章:Chapter 3
CKDにおける糖尿病治療のエビデンス
阿部 雅紀(日本大学医学部 腎臓高血圧内分泌内科)

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