CKDにおける血管石灰化の予防と治療法

執筆:湘南鎌倉総合病院腎臓病総合医療センター腎免疫血管内科主任部長 大竹剛靖

1.保存期における血管石灰化の予防と治療

血管石灰化(特に冠動脈石灰化)は、一般人ならびに透析患者において心血管イベント、心血管死亡の強力な独立関連因子である(文献1, 2)。透析患者ではリン吸着薬の介入試験(炭酸カルシウムと炭酸ランタンの比較)により、炭酸カルシウム群と比較し、炭酸ランタン群で有意に血管石灰化の進展が抑制されることがメタ解析結果も含めて示されている(文献3-7)。

一方で、保存期CKD患者での血管石灰化に関するエビデンスは未だ少ない。かつ、炭酸ランタンの保存期CKD患者への適応拡大は2013年8月であり、炭酸ランタン介入による血管石灰化進展抑制効果の検討は、保存期CKD患者では未だ明確なエビデンスはなく、今後の検討が待たれる。

保存期CKD患者での血管石灰化に関連したエビデンスを表1、図1に示す。

CKD-MBDの病態の上流に位置する高リン血症やFGF23は、CKD患者の心血管障害(CVD)予測因子かつ腎機能障害進展予測因子である。このため、これらを適切にコントロールすることが求められる。食事管理ももちろん重要であるが、リン吸着薬を併用してでも適正にリンを管理することが大切である(文献11)。

2.保存期における動脈硬化性疾患の予防と治療

(1)CKDにおけるスタチンとその他の高脂血症治療の最近のエビデンス

KDIGOガイドライン(文献12)や我が国のCKD診療ガイドライン2013(文献13)では、CVD発症予防の観点から脂質異常症へ介入する事を推奨している。ガイドラインにおける基本的考え方として、管理目標値を設定してその達成に努めるtreat to target方式と、治療するかどうかそのものに推奨のポイントをおいたfire and forget方式がある。我が国のCKD診療ガイドライン2013はtreat to target方式、KDIGOガイドラインはfire and forget方式で記載されている。

CKD患者の脂質管理における推奨事項
  • CKDと診断された患者では脂質検査を行う事を推奨する。

  • スタチンはCKD患者の心血管イベントを有意に減少する。よって、CKD患者の心血管イベント発症予防のため、脂質低下療法を推奨する。

  • スタチン単独療法あるいはスタチン+エゼチミブ併用療法はCKD患者で安全に使用できるため推奨する。

  • 50歳以上の透析を受けていないCKD患者ではスタチンの使用を推奨する。

  • 50歳未満で透析や移植を受けていないCKD患者では、糖尿病や冠動脈疾患、脳血管障害の既往のある患者、冠動脈疾患リスクの高い患者でスタチン使用を推奨する。

  • 透析患者ではスタチン使用を推奨しない。ただし、透析導入時に既にスタチンが投与されている患者ではスタチン継続を推奨する。

  • LDLコレステロール値を治療targetとしない(KDIGOガイドライン)。

  • 治療targetを設定し推奨している(JSNガイドライン)(ただし値の設定に高いエビデンスはないため推奨グレードC1)。冠動脈疾患一次予防でLDLコレステロール(LDL-C)120mg/dl未満またはnon-HDLコレステロール(non-HDL-C)150mg/dl未満、二次予防でLDL-C 100mg/dl未満、non-HDL-C 130mg/dl未満。

推奨事項の根拠

SHARP studyは、CKD患者での脂質介入が動脈硬化イベント抑制効果を有するかどうかを検証した大規模randomized double-blind trialである(文献14)。平均eGFR 26.6ml/min/1.73m2のCKD患者9270人を、シンバスタチン(リポバス®)20mg/日+エゼチミブ(ゼチーア®)10mg/日併用群またはプラセボ群に割り付け、平均4.9年フォローした結果、first major atherosclerotic events (非致死性心筋梗塞、冠動脈死亡、脳梗塞、冠動脈血行再建)において、治療介入群で17%のrisk reductionが認められた。透析患者では明らかなrisk reductionは認められなかった。

(2)現在推奨されている集学的な診療:石灰化と動脈硬化性疾患を併せて

CKD患者に対する治療介入のターゲットは、大きく1) 原疾患に対する治療介入、2) 腎機能障害進展抑制を目的とした治療介入、3) 合併症を含めた腎不全状態の管理を目的とした治療介入、ならびに4) 動脈硬化性疾患イベント抑制や生命予後改善を目的とした治療介入の4つがある。それぞれの目的に対して、単一の治療のみで十分な成果をあげることのできるものは少なく、集学的治療が必要となる。動脈硬化性疾患イベント抑制のためには、血圧管理、食事管理(塩分制限、リン制限、蛋白制限)、脂質管理、貧血管理、アシドーシスの補正などがあげられる。エビデンスレベルはそれぞれで異なるが、それぞれに関して推奨される事項をあげる。

推奨事項

  • 血清リン値を正常範囲(2.5〜4.5mg/dl)に管理する。(具体的な介入方法、介入時期や到達目標は更なる検討が必要)。(文献13, 20)

  • CVD発症を抑制する目的で脂質低下療法を考慮する(文献12, 13)。

  • CKDに合併する高血圧の降圧療法を行う(文献13)。

    • 糖尿病合併CKDではすべてのA区分(CKD重症度分類)で130/80mmHg未満を推奨。
    • 糖尿病非合併CKDではすべてのA区分で140/90mmHg未満に維持。
    • A2, A3区分(微量アルブミン尿以上)では、より低値の130/80mmHg未満を目指す。
  • 降圧薬の第一選択は(文献13)、

    • 糖尿病合併CKDではすべてのA(アルブミン尿)区分でRAS阻害薬を使用。
    • 糖尿病非合併CKDでA1区分RA阻害薬、Ca拮抗薬あるいは利尿薬A2, A3区分でRA阻害薬を使用

      (RAS阻害薬としてACE阻害薬とARBの併用はそれぞれの単独使用と比較して蛋白尿の有意な減少を認めたが、クレアチニン倍化、入院、死亡においては何らメリットを認めず、逆に悪化する報告(文献15)もありACE阻害薬とARBの併用は推奨されない。)

  • ESAによる腎性貧血治療はCVD発症を抑制する可能性はあるが、目標Hb値>12〜13g/dl以上の高めに設定した場合、それ以下と比較してかえってCVD発症リスクを増加させる可能性がある(文献16, 17)。

    目標Hb値は10〜12g/dl(文献21)あるいは10〜11.5g/dl(文献22)と異なるが、いずれも13g/dlを超えないことを推奨している。

  • 重曹などで血中重炭酸濃度を適正にすると、腎機能低下、末期腎不全や死亡のリスクが低減するため、代謝性アシドーシスの補正が推奨されている(文献13)。ただし、最近の大規模観察研究(CRIC study: CKD stage 2-4の患者3939名を含む: 文献18)では、血中重炭酸濃度が低いこと(<22mEq/L)は腎機能障害進展の独立危険因子ではあるが、総死亡や動脈硬化イベントとの有意な関連は認められなかったとする報告がなされている。この点について、観察研究でなく大規模RCTによる更なる検証が必要である(私見)。

  • RCT結果ではないが経口活性型ビタミンD製剤はCKD患者の死亡リスクを減少したとする報告がある(文献19)。ビタミンD製剤の使用を考慮してもよいとされている(文献13)。

文献

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  2. Ohtake T et al: Impact of coronary artery calcification in hemodialysis patients: risk factors and associations with prognosis. Hemodial Int 2010; 14: 218-225.
  3. Ohtake T et al: Lanthanum carbonate delays progression of coronary artery calcification compared with calcium-based phosphate binders in patients on hemodialysis: a pilot study. J Cardiovasc Pharmacol Ther 18: 439-446, 2013.
  4. Toussaint ND et al: Attenuation of aortic calcification with lanthanum carbonate versus calcium-based phosphate binders in hemodialysis: A pilot randomized controlled trial. Nephrology 16: 290-298, 2011.
  5. Wada K et al: Evaluation of aortic calcification with lanthanum carbonate vs. calcium-based phosphate binders in maintenance hemodialysis patients with type 2 diabetes mellitus: an open-label randomized controlled trial: Ther Apher Dial 18: 353-360, 2014.
  6. Kalil RS et al: Dissociation between progression of coronary artery calcification and endothelial function in hemodialysis patients: a prospective pilot study. Clin Nephrol 78: 1-9, 2012.
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  10. Fliser D, et al: Fibroblast growth factor 23 (FGF23) predicts progression of chronic kidney disease: The Mild to Moderate Kidney Disease (MMKD) study. J Am Soc Nephrol 18: 2601-2608, 2007.
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  22. Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) Anemia Work Group. KDIGO clinical practice guideline for anemia in chronic kidney disease. Kidney Int 2(Suppl): 279-335, 2012.

Contents

緒言:TOP
緒言
第1章:Chapter 1
CKDにおいて骨折を予知できるマーカー
板橋中央総合病院腎臓内科 塚本雄介(腎臓ネット)
第2章:Chapter 2
CKDにおける骨折を予防する治療法
大阪市立大学大学院医学研究科 代謝内分泌病態内科学教授 稲葉雅章
第3章:Chapter 3
CKDにおいて心血管石灰化を調べる検査
東邦大学医療センター大橋病院腎臓内科 常喜信彦
第4章:Chapter 4
CKDにおける血管石灰化の予防と治療法
湘南鎌倉総合病院腎臓病総合医療センター腎免疫血管内科主任部長 大竹剛靖

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