第1章:KDIGO ADPKDコントロバーシーカンファレンス報告

KDIGO ADPKDガイドライン作成の序章

板橋中央総合病院腎臓内科副院長 塚本雄介(腎臓ネット)

この報告はKDIGOによって発表された報告をまとめて邦訳したものです。エビデンスレビューと等級付けは行われておらずガイドラインではありませんが、これから作成される予定のガイドラインの骨子になるものです。詳しくはレポートをお読読みください。

「KDIGO」のホームページよりダウンロードが可能です

1.ADPKDの診断

  1. リスクがある個人とは1親等以内にADPKDを有する家族がいる個人と定義する。

  2. リスクがある小児の症状が現れる前のスクリーニングは現状では推奨されない。

  3. リスクがある成人の症状出現前のスクリーニングは概ねそれに伴うリスクを利益が上回るので、超音波検査により最も行われている。

  4. 鑑別すべき単純嚢胞の発現は年齢とともに増加するので、年齢別の超音波検査による診断基準がPKD1に関してはほぼ確定され、PKD2に関しても改善されてきている。

  5. 40歳以下の場合は超音波検査による鑑別診断が必ずしも正確ではなくMRIで行うべきで、これによって5個未満の嚢胞の場合はADPKDを除外できる。

  6. ADPKDであっても家族歴が不明な場合が10〜15%あることが知られている。ただし、この場合はTable 1に示すようなその他の嚢胞疾患でないことを除外する必要がある。

  7. リンケージ診断は現在ではあまり行われなくなっており、PKD1とPKD2のSangerシークエンスによる直接的変異スクリーニングが分子遺伝子診断として行われるようになった。ただし疑われる症例でも最大15%に変異が見つかっていない。さらにより有用な方法として次世代型シークエンス技術による診断が現在可能になった。

  8. こうした分子遺伝子診断は通常は不要で非典型的な症例の場合にのみ考慮される。

  9. 着床前診断による体外受精がADPKDを含む300以上の遺伝子病に適応されている。生殖における患者の選択に関する議論の中にこの着床前診断が含まれるべきである。

2.ADPKDにおける腎臓病の進行をモニターする

  1. 腎機能は数十年間にわたって減少し始めないためにモニターには不適で、変わって年齢に応じた腎容積(TKV)をモニターすることで進行性を判断できる。

  2. 実際ほとんどの成人患者でTKVは指数関数的に年5〜6%の速度で増大する。このため、TKVが増大していることで年齢と腎機能を合わせて評価すれば進行する危険にある個人を特定することが可能である。

  3. TKVは超音波検査、CT、MRIで測定できるが、臨床治験などで用いられる精度はCTかMRIである。MRIは造影なしでT2強調画像で撮影する。

  4. 進んだCTでは非嚢胞組織をさらによく描写される実質と低描写の部分に解像でき、後者は繊維化して機能が廃絶した腎組織と考えられる。MRIでは腎血流を正確に測定でき進行を推測できる。

  5. 糸球体濾過量

    eGFRが現状ではADPKDの患者の標準的診療においては受け入れられている。ただし今後尿細管のおけるクレアチニン分泌に影響を与えるような薬剤が治療薬として開発された場合、その治験には実測GFRを測定する必要が出てくるかもしれない。

  6. 蛋白尿

    300mg/日以上の蛋白尿は25%までのADPKDで見られるが、まず典型的には1g/日は超えることはない。もしネフローゼを呈するようであれば、その他の原因の併存を考えるべきである。

  7. 患者報告アウトカム(PRO)とクオリティーオブライフ(QOL)

    現状ではADPKD患者に特有な検証されたPROはない。一般人口と同様にSF36を用いたQOL評価がADPKDでも行われている。

3.高血圧、腎機能低下、と腎併発症

  1. 成人ADPKD患者の高血圧治療

    ADPKD患者は一般人口に比し高血圧と心血管病イベントのリスクは高い。ADPKDに特異的な血圧目標値を設定できるほどのエビデンスはないので、その他のCKDと同様にKDIGO CKDにおける血圧管理ガイドラインに従って140/90mmHg以下を目標にする。第一選択薬はRAAS阻害薬および食塩制限だが、第2選択薬については特定するだけのエビデンスはなく、併存症によってCa拮抗薬及び利尿薬を選択する。ただし理論的な考察からはADPKDにこれらの薬剤を使用することには議論がある。

  2. 小児ADPKDにおける高血圧の診断と治療

    小児でも年齢とともに高血圧は増加する。このため家族歴がある5歳以上の小児は高血圧のスクリーニングを開始し、その後3年間隔で繰り返すことが推奨される。治療については小児における高血圧治療ガイドラインに準拠するが、第一選択薬はRAAS阻害薬である。

  3. 通常の腎保護治療

    1. 腎機能が正常な若年者において血圧をより低く(95/60–110/75mmHg)管理する方が、一般CKDのガイドラインで推奨されている目標値(120/70–130/80 mm Hg)よりもTKVの増大が抑えられることが示されている(HALT PKD試験)。

    2. ただしeGFRに対する効果にはあまり変化はなく、降圧による腎血流の低下を反映している可能性がある。

    3. カフェインはcAMP産生を増やすことからその服用を制限した方が良い。

  4. 新しいADPKD特異的な腎保護治療薬

    1. トルバプタン

      バソプレッシンV2受容体阻害薬:TKVの増大と腎機能低下を抑制する効果が示され、日本、欧州で臨床使用が始まっている。

    2. ソマトスタチンアナログ

      3つの短期間の二重盲検試験では良い結果が示唆されており、1つの小サイズだが3年間観察した試験でも良い結果が示唆されている。

    3. スタチン

      プロバスタチンがADPKD患児でTKVと腎機能の両方で抑制効果を示したことが報告されているが、成人の2年間にわたるRCTでは否定的な結果で、今後の確認が必要である。

  5. 血尿とのう胞出血

    1. のう胞出血は通常2−7日間で自然に治るので、それ以上の出血は悪性腫瘍など他の可能性を考える必要がある。

    2. 稀に出血が重症で後腹膜血腫まで発症することがある。

    3. 急性出血の場合は一時的にRAAS阻害薬を中止してAKIを予防することが示唆されている。

  6. 腎結石

    1. 腎結石及びのう胞壁の石灰化はよく見られる。その原因は尿中への有機酸排泄の低下である。

    2. 診断にはDual-energy CTが最適で尿酸結石とCa含有結石とを鑑別できる。

    3. 治療にはクエン酸Kを経口投与する。

    4. 体外衝撃波結石破砕ESWL及び経皮的結石除去はADPKDにおいて非ADPKDに比して合併症がより増えることはない。

  7. のう胞感染の治療

    1. 発熱、腹痛、赤沈亢進またはCRP高値はのう胞感染を十分に疑わせるが、鑑別しなければならない病態は多い。

    2. 血液及び尿培養が陰性のこともある。

    3. 18F-FDGを用いたPETスキャンが感染したのう胞を特定するのに有効なことがある。

    4. 脂質透過性のある抗生剤、フルオロキノロンやST合剤が感受性にもよるが標準的な治療になっている。

  8. 慢性疼痛の治療

    1. 腎臓痛は最も一般的な腎臓に関する症状である。多くは、急性疼痛に引き続き慢性化する。

    2. 疼痛の緩和には集学的なアプローチが重要で、必要とあればWHOによる疼痛緩和手順に従う。

    3. 診断的な経費的嚢胞穿刺は嚢胞の硬化療法や腹腔鏡的嚢胞開窓術の適応の決定に有用である。

    4. 胸腔鏡下胸部交感神経遮断術もADLを低下させるような痛みには効果的だが、気胸などの合併症に危険がある。

    5. 腹腔鏡下腎神経遮断術も少数にではあるが行われ効果的な場合がある。

  9. 妊娠出産における問題

    1. 妊孕力のある女性は全て女性ホルモン製剤によって多発性のう胞肝が悪化する危険性があることについてカウンセリングを受けるべきである。

    2. 腎機能および正常血圧である女性の出産妊娠には問題はない。ただし、妊娠高血圧症候群の発生頻度は高い。

    3. 妊娠を予定した場合はRAAS阻害薬の中止が催奇形性および胎児急性腎障害の予防のために必要である。

4.末期腎不全の治療

  1. 腎代替療法の選択

    1. 腎移植が理想的な腎代替療法である。特に先行的生体腎移植に最も良いアウトカムが期待できる。

    2. 腎移植が可能でなければ血液透析または腹膜透析を行う。腹膜透析の場合は腹壁ヘルニアや大腸憩室の頻度の増加が問題となるが、これをもって禁忌とはしない。

  2. 腎移植の準備

    1. 腎移植にあたって腎摘は基本的にすべきではない。腎摘はADPKDの場合明らかに併発症および死亡率の増加につながる。また移植後に腎容積の縮小が起きることも考慮に入れる必要がある。

    2. 腎摘の適応は、反復性または重症ののう胞感染、反復性または重症ののう胞出血、腎癌の可能性、移植に足るスペースがない場合に考慮する。実際に行われている内容には差が大きいが、腎移植の約3分の1で腎摘が行われている。

  3. 腎移植後の合併症

    1. 非糖尿病腎移植患者に比して、移植後の合併症は特にADPKDで多くはないよう。特異的な合併症としては、糖尿病の新規発症、消化管合併症、多血症、尿路感染、血栓性疾患と脳出血が報告されている。

  4. ADPKD患者の腎臓を移植に提供することについて

    1. 十分な腎機能と可能な腎容積であればドナーになることは一つのオプションだが、十分なICが必須である。

  5. 腎不全のADPKD患者における腎癌のリスクについて

    1. ADPKDが他の腎臓病に比し特に腎癌の頻度が高くなることはない。このため反復する出血がない限りスクリーニングは特に推奨しない。ただし、摘出された腎臓に5〜8%で腎癌(ほとんどが直径≦2cm)存在していたという報告がある。

  6. ヘモグロビン値、血圧、脂質値の目標値について

    1. その他のCKDと特に異なる目標値はない。

  7. 抗凝固療法

    1. 特に推奨を行うための十分なエビデンスがない。

5.腎外病変の治療

  1. 脳動脈瘤ICAs

    1. ICAsはADPKDの9~12%と一般人口の2〜3%に比し明らかに多く発症する。

    2. ICAsの破裂の危険因子は家族歴以外に明らかになっていない。

    3. ICAsの一般的なスクリーニングについては以下の理由で推奨しない。

      1. ほとんどのICAsは小さなもので破裂のリスクが低い。

      2. 非破裂ICAsの予防的なインターベンションにはリスクが伴う。

    4. スクリーニングは生命予後が十分に期待でき、かつ高リスク群に行う

      家族歴にICAまたはくも膜下出血が存在する場合、ICA破裂の既往がある場合、パイロットなどの高リスク職業、情報を十分に提供しても不安が除去できない患者の場合。

    5. スクリーニングは造影剤を用いないMRIを使用する。

    6. 非破裂ICAが発見されている場合は6~24か月毎に再評価を行う。

    7. 禁煙とその他の心血管病危険因子を除去することを強く推奨する。

    8. ICAsの家族歴があるが、スクリーニングで陰性の場合は5~10年後に再検査する。

  2. 多発性嚢胞肝PLD

    1. PLDは成人ADPKDの80%以上に見られる。嚢胞は経年的に悪化し、女性またはエストロジェン製剤を服用している場合、さらに経産婦で悪化する傾向がある。

    2. ほとんどの患者で無症候性だが20%以内の患者で腹痛、腹満感、背部痛、満腹感、胃食道逆流などの症状を呈する場合がある。

    3. 重症PLDに対する外科的治療には嚢胞内の吸引/硬化療法、開窓術、部分的分節的肝切除と肝移植がある。

    4. 肝嚢胞感染は局在のある疼痛と発熱、炎症反応の高値により疑う。診断にはPETスキャンが最も有効である。治療には長期にわたるフルオロキノロン投与と感染嚢胞のドレナージが最も効果がある。感染を繰り返すのは稀ではない。

  3. その他の腎外病変

    1. その他の腎外病変は主に嚢胞(精囊40%;膵臓10%;クモ膜8%;脊髄髄膜2%)と結合組織異常(僧帽弁逸脱、腹部ヘルニア、憩室)である。これらはほとんど無症候性なので定期的なスクリーニングは不要である。

6.実践的な協調した患者サポート(患者家族により討議された)

  1. 最初の診断

    1. ADPKD患者が十分な本疾患に関する知識を有した腎臓内科医に必ずしもアクセスできていないという現状がある。最初の診断とその後のフォローアップに関し、患者と医師双方でのチェックリストを整備する必要がある。このチェックリストには腎病変の治療法や腎外病変に関する知識だけでなく、仕事、保険、生活スタイル、家族計画、精神的な健康などに関する実践的な患者への影響を網羅する必要がある。

  2. 家族計画

    1. 主要な問題は遺伝的カウンセリングと着床前診断/体外受精に関してで、これらにはコストの問題はあるとされるが、最終的には社会的なコスト削減につながる可能性がある。いずれにしろ、これらを行うかの決定は患者及び(または)その両親に委ねられるべきだとのコンセンサスに至った。

  3. 子供のスクリーニング

    1. リスクがあるが未診断の子供のスクリーニングに関しては以下の3つのオプションがある。

      1. なるべく早い時期にスクリーニングを行い、結果はすべての家族メンバーに知らせる。

      2. スクリーニングを行って、結果は両親にのみ知らせる。

      3. スクリーニングを行わない。

    2. これらは、種々の状況に応じて選ぶ必要があるが、いずれにしろ患者自身を中心に考えるべきである。

  4. ライフスタイルの改善

    1. 多くの推奨(サプリメント付録に公開されている)がされたが、これらは患者の動機付けになるようにポジティブな形で伝えられるように集中すべきである。

  5. エクササイズとスポーツ

    1. ADPKD患者にどのような推奨するかについての十分なエビデンスに欠けている。激しいコンタクトを行うようなスポーツが危険であるというデータはない。

  6. 患者の精神的ケアー

    1. 不安やうつはCKD患者に高い率で存在するが、ADPKD患者でも60%以上に存在するという報告がある。

    2. 寿命が短いということから惹起する精神的、感情的な問題に医師は患者とともに取り組むべきである。これらの問題にはライフスタイルに関する不安、体のイメージ、性的な困難症などがある。

  7. 財政的な重荷

    1. ADPKD患者は財政的な機関(銀行、生命保険会社、医療費支払機関など)や雇用主から適切に扱われていない。

    2. 国際的なADPKD団体により標準的に認められるべき内容を記した宣言を作成し、銀行、生命保険会社、雇用主、医療費支払い機関と関わる時に使用できるようにすべきである。

  8. サポート

    1. ADPKDに関する最新の情報がすべての言語とすべての文化において現状では得られていないことから、世界中のADPKD患者団体が協力して、グローバル「PKDポータル」を創設し、患者が自分自身のケアーを行うことが可能なようにする。

  9. 集学的PKDセンター

    1. センターやクリニックにADPKDに関する必要な各種の専門家を集結する集学的なチームにアクセスできることが患者にとって多面的な利益をもたらすというエビデンスがある。

    2. 加えて、エクスパートの分布と患者の分布に必ずしも一致が見られない状況があるが、これを将来的にテレメディシンが解決する大きな可能性がある。

Contents

第1章
KDIGO ADPKDコントロバーシーカンファレンス報告
<KDIGO ADPKDガイドライン作成の序章>
板橋中央総合病院腎臓内科副院長 塚本雄介(腎臓ネット)
第2章
多発性嚢胞肝の治療
北海道大学病院内科II診療准教授 西尾妙織
付録:患者家族を対象とした特集
<多発性嚢胞腎とは?―病気の意味と診断、治療法のすべて>

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