第3章:慢性腎臓病患者における腎性貧血治療ガイドライン

KDIGOガイドラインとの相違点

IMS板橋中央総合病院腎臓内科 塚本雄介(腎臓ネット)

1.2012年版KDIGOと2015年版JSDTによる貧血ガイドラインの主要な違い

2012年に発表された「慢性腎臓病における貧血のためのKDIGO診療ガイドライン」と2015年版JSDTによる「慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン」での基本的な違いは、1)非透析CKD患者におけるESA治療の開始基準と、2)鉄補充療法におけるスタンスの違い、に集約されると思う。

1)ESA治療の開始基準

ESA治療の開始に関しては、KDIGOが保存期CKDにおいて行われた唯一のRCTであるTREAT研究の結果にかなり影響を受けていることから、そのコントロールグループであったHb値<9 g/dLにならないようにという以上のことは言えないとしている点にある。一方、本邦で行われた保存期CKDにおいてHb値11〜13g/dLをダルベポエチンで目指したA21試験の結果やその他の観察研究では、欧米のRCTのように決して心血管死の増加をもたらさずにQOLの改善を得ていることから、保存期CKDにおいてはHb<11 g/dLで腎性貧血治療の開始を推奨した。欧米のように元々心血管死リスクの高い患者群とそれらのリスクの低い日本における患者群の違いが表現されたものと思う。血液透析患者にあっても、JSDTはKDIGOよりも実質1g/dL高いHb値(<10 g/dL)でESAの開始を推奨している。

2)鉄補充療法におけるスタンスの違い

もう一つの大きな違いは欧米では静注鉄剤の種類と投与量が多く副作用に関する種々の懸案があるにもかかわらず、エビデンスがないということで鉄過剰の危険性に対する注意喚起に希薄なところがある。一方、日本では十分なエビデンスがないにもかかわらず、鉄過剰に対する危機感は一般に強く、これはESA登場以前の過剰な輸血に基づくところも多い。また静注用鉄製剤の1回投与量が40mgと低く抑えられている点も安全性の面で評価されることである。そうした中で、第2章に詳述されているように日本の観察研究に基づき、鉄補充療法においてフェリチン値の上限を設定した上で、2008年版ガイドラインより鉄補充療法の意義と適応を明確にしている点が注目すべきと思われる。

2.両ガイドラインの比較

1.ガイドラインの概要
ガイドライン 推奨 KDIGOとの相違度
2012KDIGO 「CKDにおける貧血」としてエリスロポエチン産生低下以外の貧血も全て包括したガイドラインとしている。その中で治療は鉄剤とESAその他にわけて推奨している。  
2015JSDT 「腎性貧血治療」に対するガイドラインとしており、治療では鉄剤は独立した章で、ESAに関しては特定せずに「腎性貧血治療」と総称している。ただ「腎性貧血治療」における開始基準と維持目標のもととなるエビンデンスは全てESAによるもので、実質的にはESA投与に関する推奨と解釈できる。 ほぼ異なる
2.血液透析患者における貧血治療の開始基準
ガイドライン 推奨 KDIGOとの相違度
2012KDIGO 「Hb 値が9.0〜10.0 g/dL の時に、ESA 療法を開始することによって 9.0 g/dL 以下にはならないよう ESA 療法が使用されることが望ましい。(2B)」としている。ただしより高いHb 濃度が QOL を改善するうえで必要と考えられる場合は,10.0 g/dL(100 g/L)より高い時点でESA 療法を開始することは治療の個別化という観点からは妥当である。(グレードなし) 」とした。簡単に言えば、Hb値が9未満にはならないように開始すべきで、それが患者の利益になると考えられれば10g/dL以上でも始めて良い、ということになる。  
2015JSDT 「週初めの採血でHb値10g/dL未満になった時点で腎性貧血治療を開始する」とした。 異なる
3.血液透析患者における貧血治療の維持目標値
ガイドライン 推奨 KDIGOとの相違度
2012KDIGO 「一般的にHb値11.5 g/dLを超えて維持しないことが望ましい」とし、「意図的にHb値13g/dL以上に増やすことを禁止」している。すなわち、目標値という言い方を避けつつもHb値9〜11.5 g/dLということになる。  
2015JSDT 「Hb値10〜12g/dLに維持することを推奨」した。 異なる
4.非透析CKD患者における貧血治療の開始基準
ガイドライン 推奨 KDIGOとの相違度
2012KDIGO 「Hb値が<10.0 g/dLの場合、ESA療法を開始するかはHb濃度の低下速度、先行する鉄剤投与への反応、輸血が必要になるリスク、ESA療法に伴うリスク、そして貧血に伴う諸症状の有無に基づき個々に判断することが望ましい。(2C)」とした。  
2015JSDT 「複数回の検査でHb 値 11 g/dL 未満となった時点で腎性貧血治療を開始することを提案する。(2C)」と明らかに早期での開始をシンプルに推奨している。これは日本のエビデンスに基づいている。 異なる
5.非透析CKD患者における貧血治療の維持目標値
ガイドライン 推奨 KDIGOとの相違度
2012KDIGO 「ESA製剤をHb値が11.5g/dLを超えて維持するように投与しないことが望ましい。(2C)」、かつ「ESA製剤によって意図的にHb値を13 g/dL以上に増やすことをしないよう推奨する。(1A)」とした。  
2015JSDT 「維持すべき目標 Hb 値は 11 g/dL 以上 13 g/dL 未満とする。(2C)」としつつ、「重篤な心・血管系疾患(CVD)の既往や合併のある患者,あるいは医学的に必要のある患者には Hb 値 12 g/dL を超える場合に減量・休薬を考慮する。(not graded)」とした。2008年JSDTでは「目標Hb 値は,11 g/dL 以上を推奨する(推奨).」として上限値を定めていなかった。 やや異なる
6.鉄補充療法の適応(ESAを使用していない場合)
ガイドライン 推奨 KDIGOとの相違度
2012KDIGO 「ESAを使用しないでHb濃度を増加したい場合、かつ TSATが≦30%およびフェリチンが≦500 ng/mL(500 g/L)の場合に静注鉄剤(または CKD ND患者では 1~3カ月間の経口鉄剤での代用)を試みることが望ましい(2C)」とし、必ずしも鉄補充療法をESAに先行させるとは推奨していない。  
2015JSDT 「目標 Hb 値が維持できない患者において,血清フェリチン値が50 ng/mL 未満の場合,ESA 投与に先行した鉄補充療法を提案する。(2D) 」とし、先行的な鉄補充療法を提案している。 やや異なる
7.鉄製剤の適応(ESAを使用している場合)
ガイドライン 推奨 KDIGOとの相違度
2012KDIGO 「Hb 濃度の増加またはESA の減量が求められるとき、かつ TSAT が≦30%およびフェリチンが≦500 ng/mL(500 g/L)の場合に静注鉄剤(または CKD ND患者では 1~3カ月間の経口鉄剤での代用)を試みることが望ましい(2C)」と弱い推奨をしている。  
2015JSDT 「ESA 投与下で目標 Hb 値が維持できない患者において,血清フェリチン値が100 ng/mL 未満かつ TSAT が20%未満の場合,鉄補充療法を推奨する。(1B)」と積極的に推奨している。 はっきり異なる
8.鉄製剤の禁忌と鉄補充の上限
ガイドライン 推奨 KDIGOとの相違度
2012KDIGO 「活動性の感染症がある場合、鉄製剤の静注は避けるべきである。(not graded)」としている。ただし、TSAT>30%およびフェリチン>500 ng/mL以上では鉄製剤の投与は有効ではないとしているが禁忌とまでは言っていない。  
2015JSDT 「血清フェリチン値が 300 ng/mL 以上となる鉄補充療法は推奨しない。(2D)」とした。JSDTの方が2008年版以来、鉄の過剰投与のリスクをより意識したものになっている点が異なる。 かなり異なる
9.ESA製剤の慎重投与・禁忌
ガイドライン 推奨 KDIGOとの相違度
2012KDIGO 「活動性の悪性腫瘍がある場合—治癒が期待される場合は特にー(1B)、脳卒中の既往がある場合(1B)、または悪性腫瘍の既往がある場合(2C)はESA療法を行うとすれば十分な注意を払うことを推奨する。」とした。  
2015JSDT 「①貧血を合併した担癌患者に対する ESA 治療は,特に化学療法中の患者において,血栓症や死亡のリスクを増加させる可能性がある。(not graded)、②担癌患者の腎性貧血に対しESA で治療することは,血栓症や死亡のリスクを増加させる可能性がある。(not graded)」とした。 同じ
10.赤血球輸血の是非
ガイドライン 推奨 KDIGOとの相違度
2012KDIGO いずれのガイドラインも輸血を必要最小限にすることで一致しており、ESA低反応性やESAが危険とされるような場合、急性の貧血進行の場合にのみ投与するとしている。また、臓器移植を予定している場合、輸血は拒絶反応を惹起する抗体産生を高める危険性があるので極力避けるように推奨している。  
2015JSDT 同じ
11.小児におけるESA治療の目標Hb値
ガイドライン 推奨 KDIGOとの相違度
2012KDIGO ESA治療の目標Hb値は11.0〜12.0 g/dLとした。  
2015JSDT ESA治療で維持すべきHb値を11.0 g/dLとし上限値は定められていない。 やや異なる。
12.小児における鉄補充療法
ガイドライン 推奨 KDIGOとの相違度
2012KDIGO KDIGO、JSDT共にESA投与下での鉄補充療法療法の開始基準をTSAT≦20%かつフェリチン値≦100 ng/mLで、目標はそれ以上としている。  
2015JSDT 同じ

Contents

第1章
2015年版における修正点と継承した推奨
厚木市立病院院長 山本裕康
第2章
ガイドラインの元となった日本発のエビデンス
大阪大学大学院医学研究科腎疾患統合医療学准教授 濱野高行
第3章
KDIGOガイドラインとの相違点
IMS板橋中央総合病院副院長 塚本雄介(腎臓ネット)

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