第4章:KDIGO CKD-MBDガイドライン 2017改訂版

JSDTガイドラインとの整合性

濱野高行(大阪大学大学院医学研究科腎疾患統合医療学准教授)

KDIGOのガイドラインとJSDTガイドラインとの違いを中心にまとめてみたい。

1)日本のPTHの目標値とは大きく違う点は前回と同じ

intact PTH (iPTH)濃度の目標管理域は正常上限値の2倍から9倍という旧ガイドラインのそれが継承されている。これはたとえばiPTH濃度の正常域上限が60 pg/mLであれば120~540 pg/mLとなり、日本のガイドラインの60-240 pg/mLに比し著しく高く映るかもしれない。世界レベルでみると、iPTHには多くのアッセイがあり、必然的に目標値を広くせざるを得ないが、日本の場合は透析クリニックではエクルーシス法がほとんどであり、アッセイの違いはそれほど問題にはならない。またPTHの骨感受性は人種差が少なくとも白人と黒人では確認されており、黄色人種である日本人が欧米人と違っていて不思議ではない。ただ、日本のガイドラインでは3年間の生命予後では60-300 pg/mLで一番生存率が良く、このデータはcalcimimeticsがほとんど使われていなかった時期の解析である。今後は再度近年のデータで解析しなおし、改訂する必要があるかもしれない。日本のMBD-5D研究では、Cinacalcetによる心血管イベントによる入院と死亡の抑制はbaselineのiPTH>300 pg/mLで認められたことは、300 pg/mL以上で管理することが日本の透析患者にとっては好ましくないことを示唆する。その意味では60-240 pg/mLの日本のガイドラインは、KDIGOの目標値に比べかなり低いといえど、それなりに妥当性があると筆者は考える。

2)骨塩量の測定は日本では既によくされており、日本に歩み寄ったとも言える

2009年版KDIGOガイドラインでは、骨折既往のある患者と既往のない患者では骨密度に差がなかったことから、骨密度の測定は推奨されていなかった。しかし、日本の研究をはじめとする前向きコホート研究の結果から保存期においても、透析期においても低骨密度が骨折を予測したことから大幅に変更がなされた。ただし、条件がついている。骨密度の測定が治療決定に影響を与える場合には、という条件である。日本では、この条件の有無にかかわらず昔から透析患者で骨密度が測定されていたことから、日本に歩み寄ったとも言える。ただ、低骨密度の時にいかなる治療をどのようなアルゴリズムで選択するのか、に関する情報は与えられていない。また日本ではMD法などDEXA以外の測定もまだされている病院もある。これらの価値を今後日本で見ていく必要があろう。

3)25(OH)Dを測定することが前提となっている

保存期のPTHの目標値は不明としながらも、かなり高い、あるいは上昇しつづける場合、補正することができる高リン血症、低Ca血症、リン摂取過剰に加えてビタミンD欠乏の有無を調べるように書かれている。ここでいうビタミンD欠乏は25(OH)Dの測定をしないと不明である。欠乏の基準は15ng/mLが一般的によく使われているが、今回のガイドラインでは特段明示されていない。また、移植後12ヶ月以内の骨代謝治療薬は、血清カルシウム、リン、PTH、ALPに加え、25(OH)Dに基づくべき、ときっちり明示されている。しかし、本邦では25(OH)Dの測定の適応はビタミンD欠乏性くる病若しくはビタミンD欠乏性骨軟化症の診断時又はそれらの疾患に対する治療中に限られている。これらの記述は欧米では活性型ビタミンDではなく、ergocalciferol, cholecalciferolといった天然型ビタミンDが使えることが前提となっているが、日本では保険適応はなく、サプリメントの位置づけである。また米国ではFDAがOPKO社の徐放型ビタミンD製剤の二次性副甲状腺機能亢進症の適応を認めたが、日本ではまだ上市される予定はない。これらを使用できない日本では、活性型ビタミンD製剤に頼らざるを得ないが、25(OH)D欠乏があるときに、活性型ビタミンDだけで病態を治療できるかどうかに関しては議論がある。たとえば、極度の骨軟化症に活性型ビタミンDを投与するだけでは骨病変は改善せず、痛みや臨床検査値は天然型ビタミンDを補充してはじめて改善することも報告されている。日本において、代謝性骨疾患における25(OH)D測定の薬事承認はされたばかりであるが、まだ保険承認には至っていない。つまり日常臨床では測定できない。ゆくゆく保険承認されれば、日本でのCKD-MBD治療は画期的に変わることになるだろう。

4)検査値管理の優先順位

日本のガイドラインでは、血清リン濃度 血清補正 Ca濃度を管理目標値内に維持することを 血清 PTH 濃度を管理目標値内に維持することより優先する、と書かれている。つまり、まずは血清リン濃度、その次に血清Ca濃度、それらが管理できてからはじめてPTH濃度の管理をすることが謳われた。これは、リン、CaおよびPTH濃度の生命予後との関連の強さ(effect sizeの大きさ)に基づき、さらには、リンだけ、Caだけ、PTHだけが管理目標値を満たしたときのeffect sizeの比較に基づいている。確かに、血清リン濃度、Ca濃度が満たされてからPTH管理へ、という流れは、活性型ビタミンD製剤の使用を念頭に置く場合には、好ましい順番であろう。すでにCaもPTHも管理目標値よりも高いときにビタミンD製剤を使えば、高Ca血症が悪化するだけだからだ。しかし、この優先順位は、ことシナカルセト塩酸塩の使用の際には当てはまらない。CaもリンもPTHも高い時に、シナカルセトはCaもリンも下げることができるからである。つまりこの際には、シナカルセトはPTHコントロール薬であるが故に、PTH管理を優先したことに他ならないからである。もっとも、このあたりの例外は、血清リン濃度を横軸、血清補正Ca濃度を縦軸としたいわゆる曼荼羅図で、シナカルセトの記載もあり、シナカルセトの使用がリン、カルシウムの管理のために、ということも記載されており補完できよう。

ではKDIGOガイドラインではどうかというと、明確な優先順位は規定されていない。ただ一回の測定値に基づくのではなく、連続的に血清カルシウム、リン、PTH濃度の変化を一緒に考えることが重視されている。一つの検査値を動かすと他の検査値が動くことが重要であるということは、”the complexity and interaction of CKD-MBD laboratory parameters”との表現に見てとることができる。

5)血清カルシウム濃度の管理目標

かつてのKDIGOガイドラインでは、血清Ca濃度は正常範囲に保つことが推奨されていたが、改訂されたKDIGOガイドラインにおいて、この表現は保存期、透析期にかかわらず高Ca血症を避けるべきであるという表現に変更されている。そして、解説において、軽度あるいは無症候性の低Ca血症は、とくにcalcimimeticsの使用中においては、不適切なカルシウム負荷を避けるために許容するとも書かれている。JSDTのガイドラインは、むしろかつてのガイドラインに近い。つまり、血清補正 Ca濃度の目標値として8.4~10.0mg/dLが提示されている。高Ca血症に関しては、血清補正 Ca濃度 10.5mg/dL以上では速やかに治療の変更を考慮すると書かれているが、低Ca血症を容認するとは書かれていない。現在、日本では世界に先駆けてetelcalcetideが使われているが、この薬剤を改訂KDIGOガイドラインに基づいて軽度の低Ca血症を許容しながら使うのは個人的に危険と考える。その理由は、維持期においてPTH非依存性に血清Ca濃度が急激にさがるエピソードを経験しているからである。この薬剤を使う際には、せめて正常下限は最低でも維持していないと、不測の低Ca血症に対応できなくなり、安全域がないことになってしまう。

6)骨生検に関する記述

KDIGO改訂ガイドラインでは、腎性骨症のタイプを知ることで治療方針が決定されるときには骨生検を実施するのは妥当であると書かれている。解説では、この改訂は、CKDを有する低骨塩量や骨折リスクの高い患者で、一般の骨粗鬆症治療薬を使って治療することが増えたことに基づいているとも書かれている。しかし解説では、骨生検を実施できないことが、骨吸収阻害薬を患者に投与しないでおくことを正当化できない、とも書かれている。2009年版ガイドラインの、骨吸収阻害薬を投与するまえに骨生検をするべきである、というスタンスからは明らかに後退している。この文脈から考えると、骨生検を実施してPTHが目標範囲にあるにも関わらず骨吸収が亢進している場合には、骨吸収阻害薬を投与することは妥当であるが、骨生検ができなくても活性化した破骨細胞が多いことが高率に予想されるときには、骨吸収阻害薬を投与することが妥当とも読める。では骨吸収阻害薬を投与しても良い程、破骨細胞が活性化しているかどうかをいかに予想すればいいのか、ということに関しては、ガイドラインは答えを与えていない。これに答えるだけのエビデンスがないからである。現在、私が知っている透析施設でもビスホスホネートやデノスマブを使う施設が増えている。しかしながら、まだこれらの薬剤をリスクの高い透析患者に無前提に使うほどには、骨折抑制のエビデンスが十分にないこと、さらにはそれぞれの薬剤が低回転骨、低Ca血症をもたらすリスクが高いこともガイドラインの解説で述べられている。よって使うにしても慎重に使うべきである、という表現がなされている。

これらの骨生検に関する記述は、「侵襲的検査である骨生検を繰り返して頻回に施行することは現実的でない。したがって、骨生検は透析患者の日常診療の指針とならない」という日本のガイドラインの解説にある意味で通じているのかもしれない。その意味では、骨代謝マーカーと薬剤の骨折抑制効果を直接結びつけるような臨床研究が今後より必要になると考えられる。

以上

Contents

第1章
改訂の概要と特徴、WGで何が問題になったか?
深川雅史(東海大学医学部内科学系腎内分泌代謝内科教授)
第2章
CKD-MBDの診断:骨(CHAPTER 3.2)
稲葉雅章(大阪市立大学大学院医学研究科代謝内分泌病態内科学教授)
第3章
CKD-MBDの治療:高リン血症の治療と血清Ca濃度の維持(CHAPTER 4.1)
横山啓太郎(東京慈恵会医科大学腎臓高血圧内科准教授)
第4章
CKD-MBDの治療:異常PTH濃度の治療(CHAPTER 4.2)
駒場大峰(東海大学医学部内科学系腎内分泌代謝内科講師)
第5章
JSDTガイドラインとの整合性
濱野高行(大阪大学大学院医学研究科腎疾患統合医療学准教授)

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