第2章:カルシミメティクス

B)カルシミメティクス治療の問題点
 (ア)消化器症状

日高会日高病院腎臓病治療センター研究統括部長 東京女子医科大学東医療センター客員教授 永野伸郎

はじめに

本邦では現時点において、シナカルセト塩酸塩(シナカルセト;レグパラ®)、エテルカルセチド塩酸塩(エテルカルセチド;パーサビブ®)、エボカルセト(オルケディア®)の計3製剤のカルシミメティクス(calcimimetics)が臨床使用可能であり、日本特有の状況となっている。一方、これら3製剤は等しく“カルシミメティクス”に分類されるものの、それぞれ異なる特徴を有している。

一般にその薬剤が分類されるカテゴリーに共通する薬理作用を、クラスエフェクト(class effect)と称する。従って、カルシミメティクスのクラスエフェクトは、標的タンパク質である副甲状腺細胞表面上のカルシウム(Ca)受容体(CaSR)の刺激を介した、副甲状腺ホルモン(PTH)分泌抑制作用あるいはその表現型である血中PTH低下作用となる(on-target effect)1)。これに対して、化学構造式、物性、薬物動態特性、剤形、投与ルート、投与頻度などの相違に起因した、個々の薬剤固有の作用をドラッグエフェクト(drug effect)と定義することができる1)。カルシミメティクス3製剤において、CaSRを介さないそれぞれ固有の作用(off-target effect)は、想定外の新規薬効もしくは有害事象に繋がる場合がある。

上部消化管障害(消化器症状)は、シナカルセトで最も問題となる有害事象であるが(図1)、そもそも本作用はカルシミメティスの宿命ともいうべきクラスエフェクトなのか、あるいは回避可能なシナカルセト特有のドラッグエフェクトなのか?この問いに対しては、ダブルダミー法を用いたランダム化二重盲検直接比較試験により有効な解答を得ることができる。幸いにも、海外においてシナカルセトとエテルカルセチドの比較試験が、本邦においてシナカルセトとエボカルセトの比較試験が実施されている。本稿では、これらの比較試験結果を基に、カルシミメティクス3製剤の消化器症状に限定したドラッグエフェクトに関して私見を交えて考察する。

1.シナカルセトの消化器症状

国内治験時のシナカルセトの消化器症状(因果関係が否定できない有害事象;すなわち副作用)を図1に示す。興味深いことに、胃不快感、悪心、嘔吐の発現頻度にきれいな用量依存性が認められており、これらの症状発現は血中濃度と相関した現象である可能性を伺わせる。

2.エテルカルセチド

エテルカルセチドは、7個のD体アミノ酸直鎖N末端のD体システイン(Cys)に、L体Cysをジスルフィド(S-S)結合させた合成オクタペプチドである(図2)。従って、血液透析終了時に透析回路静脈側ルートより、週3回投与される静注カルシミメティクス製剤である。本剤はCaSRの細胞外ドメインのCys482にジスルフィド結合するが、本部位はCa2+結合サイトとは異なるため、アロステリック・アゴニストに位置付けられる。

<クラスエフェクト vs ドラッグエフェクト>

国内第Ⅲ相長期投与試験における消化器症状の副作用は、安全性評価対象190例中、嘔吐が2件(1.1%)、悪心、腹部不快感、胃食道逆流性疾患、心窩部不快感が各1件(0.5%)と殆ど認められていない。本結果から判断すると、消化器症状はカルシミメティクスのクラスエフェクトではなく、経口製剤であるシナカルセト特有のドラッグエフェクトと考えることもできる。

3.シナカルセトとエテルカルセチドの直接比較試験

海外で実施された直接比較試験における悪心および嘔吐の発現頻度は、シナカルセトで22.6%および13.8%であるのに対し、エテルカルセチドでは18.3%および13.3%であり、両製剤間で殆ど差は認められていない2)。日本人での検証が必要ではあるものの、「エテルカルセチドは静脈内に投与されるため、消化器症状を惹起しない」という考えは、科学的根拠の無い先入観であったと言えるかもしれない。

<Off-target effect vs On-target effect>

通常、薬剤が主薬効以外の副作用を発現する場合、非特異的なoff-target effectによるものと考える。シナカルセトのオリジンはCaチャネルブロッカーであるため、(経口投与直後では消化管内腔側で高濃度となり、特に消化管内腔側に発現している)チャネル、受容体、トランスポーターに対する作用がoff-target effectとして想定される(図2)。一方、エテルカルセチドはD体ペプチドであるため、インフュージョン・リアクション(infusion reaction)、抗原抗体反応、D体アミノ酸による未知の作用などがoff-target effectとして想定される。しかしながら構造はもとより、想定されるoff-target effectが全く異なる両製剤が、偶然にも共通して悪心、嘔吐を惹起するということは考えにくい。従って、両製剤は何れも強力なカルシミメティクスであるため、やはり消化器症状はCaSRを介したカルシミメティクスのon-target effect、すなわちクラスエフェクトの一環と考えるのが妥当と思われる(図2)。

4.消化器症状発現機序(想定)

CaSRはCa2+のセンサーのみならず、一部のアミノ酸のセンサーとしても機能している。また、CaSRは消化管の各細胞の管腔側および血管側のほぼ両側に発現しており、ホルモンやオータコイドの分泌を制御している(表1)。さらには、アウエルバッハ神経叢にもCaSRが発現しており、刺激により消化管の蠕動運動が抑制される。これらの消化管に発現しているCaSRが刺激された場合、消化液分泌亢進、消化管運動抑制、中枢性の食欲低下や満腹感が生じる。すなわち我々の体には、食事で摂取したCa2+およびアミノ酸が消化管CaSRを刺激することで、消化および吸収が亢進する合目的な機構に加え、さらなる摂食行動を中枢性に抑制するネガティブフィードバック機構が備わっているのである。

本機構と悪心・嘔吐との直接的な因果関係の証明は困難であるが、例えば長時間作用型GLP-1受容体作動薬の悪心・嘔吐発現頻度はカルシミメティクスよりも明らかに高頻度である。また古くより、透析による除水で消化管鬱血が解消されるため、透析終了後に消化管運動が亢進することはよく知られていた。シナカルセトの消化器症状は、透析日に少なく非透析日に多いことや、胃や小腸に食事の内容物が少ない眠前の服薬で少ないことは、本現象と符合する。さらには、シナカルセトは正常ラットおよび消化器症状を呈する透析患者の胃排出能を低下させる。このような考えに従えば、カルシミメティクスの消化器症状は、言わば宿命ともいえる不可避のクラスエフェクトとも思われる。

5.エボカルセト

エボカルセトは、シナカルセトと同じナフチルアルキルアミン骨格を有し、CYPによる代謝をほとんど受けずに高い生物学的利用率(bioavailability; BA)を実現し、かつCYP2D6抑制作用も有さないという代謝特性を有する(図3)1)

また、シナカルセトと比較して、複数の受容体やトランスポーターに対する非特異的作用も少ないため、本剤特有のドラッグエフェクトを示す可能性は少ないと推定される。さらには、シナカルセトと共通する構造中の塩基性アミン部分がCaSRの膜貫通ドメインの857番のグルタミン酸と相互作用により結合するため、結合部位はシナカルセトと同一部位と考えられる。

6.シナカルセトとエボカルセトの直接比較試験

国内の第Ⅲ相二重盲検比較試験における消化器症状発現頻度は、シナカルセトの32.8%に対し、エボカルセトでは18.6%と有意に少ない3)

各症状別では、エボカルセトはシナカルセトと比較して、悪心および腹部不快感の発現頻度が有意に少なく、嘔吐および腹部膨満の発現頻度にも減少傾向が認められている。またサブ解析において、両剤間の消化器症状の発現頻度は投与開始直後から差が認められること、2mg開始群においても同様の結果であること、シナカルセトの前治療歴の有無にかかわらず、エボカルセトの消化器症状発現頻度は少ないことが示されている。

ここで興味深いのは、シナカルセト前治療時に消化器症状が無かった患者においても、エボカルセトで17.7%、シナカルセトで28.7%に消化器症状が認められたという点である。過去のシナカルセトのプラセボ対照比較試験において、プラセボ群で悪心(19.7%)、嘔吐(5.6%)、胃不快感(11.3%)が高頻度で認められていることも併せ考えると4)、治験の特性上、エボカルセトに起因しない消化器症状も加味されている可能性が推察される。

7.エボカルセトの消化器症状低減機序(推定)

消化器症状はカルシミメティクスの不可避ともいえるクラスエフェクトと思われたが、エボカルセトでは軽減されていることが臨床において証明された。

また基礎試験においても、エボカルセトはラットの胃排出能に影響せず、マーモセットにおける嘔吐マージン(安全域)は、シナカルセトの3倍に対して10倍と3倍以上に拡大されている5)。すなわち、消化器症状はシナカルセトおよびエテルカルセチドのドラッグエフェクトであったと言うことも可能である。

それでは、何故、エボカルセトは消化器症状を低減することができたのであろうか?考えられ得る機序を列挙する。

(1)構造に起因するoff-target effectの少なさ

エボカルセトでは、シナカルセトの直鎖構造部分が五員複素環のピロリジンに置き換わっていることより、リジッドな構造となっている(図3)1)

そのため、直鎖構造部分が回転するシナカルセトに対して、エボカルセトは各種受容体、イオンチャネル、トランスポーターへの作用は低い。特に化学受容器引金帯(CTZ)に発現しているドパミン、セロトニン、ニューロキニン受容体に対する作用がほとんど無いことも示されている。

CTZの活性化が嘔吐中枢を興奮させて嘔吐発現に至る経路が存在するため、脳血液関門の外側に位置するCTZの各受容体に対する作用が無いことは、エボカルセトの消化器症状が少ない理由の一つとして考えることができよう。

(2)BAの高さに起因する経口投与量の少なさ

ヒトにおいて、エボカルセトはシナカルセトよりも約4倍高いBAを有する。その結果を反映し、第Ⅱ相二重盲検用量反応試験において、シナカルセト25mgとエボカルセト2mgが同程度の血中PTHおよびCa低下作用を示す(用量換算比;12.5:1)。従って、エボカルセトの経口投与量はシナカルセトよりも1/10以下で良いこととなり、経口投与後の消化管内腔側のCaSR刺激作用は自ずと低いものとなる。

(3)吸収速度が速く、シナカルセトよりも低活性

透析患者における単回投与時の血漿中薬物濃度の比較では、シナカルセト50mgでの最高血中濃度(Cmax)は18.5ng/mLであるのに対し、エボカルセト4mg(用量換算比;12.5:1)では210ng/mLと10倍以上である(図4)6,7)。その後もエボカルセトの血中濃度はシナカルセトの約10倍の高値で推移している。

また、シナカルセト50mgの最高血中濃度到達時間(Tmax)は6時間であるのに対し、エボカルセト4mgでは4.1時間と約2時間短い(図4)6,7)

従って、エボカルセトのCaSRに対する活性は、シナカルセトよりも低いことに加え、エボカルセトはシナカルセトよりも速やかに吸収されることが読み取れる。以上より、エボカルセトはシナカルセトと比較して、経口投与量が1/10以下であり、CaSRに対する活性は弱く、さらに速やかに吸収される結果、消化管内腔側のCaSR刺激作用が少なく、かつ短時間であると推定される。本結果はエボカルセトの消化器症状低減理由の大きな部分を占めると思われる。

8.エテルカルセチドの消化器症状と投与タイミング

ここまで考えると一つの疑問が生じる。静脈内投与されるために消化管内腔側CaSRを刺激することが無いエテルカルセチドが、何故、シナカルセトと同程度の消化器症状を示すのであろうか?

エテルカルセチドは静脈内投与直後の血中濃度は著明高値となり、その後も血中濃度は高値で維持されるため、消化管血管側のCaSR刺激作用はシナカルセトよりも顕著であると推定される。しかしながら、エテルカルセチドの消化器症状がシナカルセトよりも多くならない理由の一つとして、エテルカルセチドは消化管運動能が亢進している透析直後のタイミングで必ず投与されるからではないかと考えることができる。

おわりに

今回、三段論法さながらの私見を交えて、カルシミメティクス3製剤の消化器症状に対する作用を考察した。

カルシミメティクスの消化器症状はクラスエフェクトのように一時は思われたが、薬物代謝特性でそれを低減可能にしたのがエボカルセトであると言える。

詳細な基礎試験に加えて、日本人透析患者を対象とした、エテルカルセチドとエボカルセトの厳密な直接比較試験が明らかに必要である。

文献

  1. 永野伸郎、伊藤恭子、筒井貴朗:カルシウム受容体作動薬(calcimimetics)におけるクラスエフェクトとドラッグエフェクト.腎と透析 85: 451-455, 2018.
  2. Block GA, Bushinsky DA, Cheng S, et al: Effect of etelcalcetide vs cinacalcet on serum parathyroid hormone in patients receiving hemodialysis with secondary hyperparathyroidism: a randomized clinical trial. JAMA. 317: 156-164, 2017.
  3. Fukagawa M, Shimazaki R, Akizawa T; Evocalcet study group.: Head-to-head comparison of the new calcimimetic agent evocalcet with cinacalcet in Japanese hemodialysis patients with secondary hyperparathyroidism. Kidney Int. 94: 818-825, 2018.
  4. Fukagawa M, Yumita S, Akizawa T, et al: Cinacalcet (KRN1493) effectively decreases the serum intact PTH level with favorable control of the serum phosphorus and calcium levels in Japanese dialysis patients. Nephrol Dial Transplant. 23: 328-335, 2008.
  5. Kawata T, Tokunaga S, Murai M, et al: A novel calcimimetic agent, evocalcet (MT-4580/KHK7580), suppresses the parathyroid cell function with little effect on the gastrointestinal tract or CYP isozymes in vivo and in vitro. PLoS One. 3;13: e0195316, 2018.
  6. Ohashi N, Uematsu T, Nagashima S, et al: The calcimimetic agent KRN 1493 lowers plasma parathyroid hormone and ionized calcium concentrations in patients with chronic renal failure on haemodialysis both on the day of haemodialysis and on the day without haemodialysis. Br J Clin Pharmacol. 57: 726-734, 2004.
  7. Shigematsu T, Shimazaki R, Fukagawa M, et al.: Pharmacokinetics of evocalcet in secondary hyperparathyroidism patients receiving hemodialysis: first-in-patient clinical trial in Japan. Clinical Pharmacology: Advances and Applications. 10: 101-111, 2018.

Contents

第1章
CKD-MBD診療ガイドラインレビュー
(IMSグループ板橋中央総合病院腎臓内科部長 / 腎臓ネット代表)塚本 雄介
第2章
A)カルシミメティクスをめぐる最新のエビデンス
(昭和大学藤が丘病院腎臓内科教授)小岩 文彦
B)カルシミメティクス治療の問題点
(ア)消化器症状
(日高会日高病院腎臓病治療センター研究統括部長
 東京女子医科大学東医療センター客員教授)永野 伸郎
(イ)低カルシウム血症
(東邦大学医療センター大橋病院腎臓内科准教授)常喜 信彦
第3章
ビタミンD療法のUp-To-Date
(大阪市立大学大学院医学研究科血管病態制御学研究教授)庄司 哲雄
第4章
カルシミメティクス時代の副甲状腺摘出術の意義と位置付け
(東海大学医学部付属八王子病院腎内分泌代謝内科教授)角田 隆俊

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