第2章:カルシミメティクス

B)カルシミメティクス治療の問題点
 (イ)低カルシウム血症

東邦大学医療センター大橋病院 腎臓内科准教授 常喜信彦

1.QT延長症候群とは

QT延長症候群とは心電図のQT時間が通常よりも長くなる一連の病態、原因を包括した表現である。QT時間は心室筋活動電位持続時間に一致するが、その心収縮後の再分極が遅延することによって、Torsades de Pointesに代表される致死性の心室頻拍の発症リスクを高める病態を意味する。その原因は大きく先天性と2次性に分けられる。

この章では2次性にスポットを当て、透析医療の現場で遭遇するどのようなことがQT延長を招き、致死性不整脈、ひいては心臓突然死のリスクを高めているかについて触れてみる。

2.2次性QT延長症候群の原因

表1に示す通り2次性にQT延長を来し致死性不整脈を起こした報告は多岐にわたる。大きく1)薬剤性、2)電解質異常、3)代謝異常、4)心疾患、5)徐脈、6)中枢神経疾患に分けることができる。また特に高齢の女性に生じやすいことも留意すべきである。この中でも、近年の透析医療に深くかかわるQT延長症候群と低Ca血症について概説する。

3.QT間隔

一般にQT時間の計測は、QRS波の開始点からT波終末点を計測するが、QRSの開始点は比較的わかりやすいが、一方でT波の終末点の同定は容易ではない。

実臨床の現場でのT波の終末点の決定法は、医師や技師による目視によるものと、コンピューターによるデジタル認識法による。心電計による自動計測法としては1)折線法、2)微分法、3)閾値法などがある。現在でもQT延長か否かの判断は、“熟練者の目”に頼るところが大きい。QT時間に最も影響を及ぼす因子として心拍数がある。したがって、その延長の有無はBazettの式(QTc=QT/√RR)により心拍数の平方根で補正したQTcで判断するのが一般的である。基準値は以下に示すとおりである。

QTc(男性):350msec ~ 440msec

QTc(女性):360msec ~ 450msec

また補正方法により、Bazettの式の場合QTcBと、Fridericia 補正法の場合QTcFと表記されることがある。現在多くの心電計は自動でQTcが計測されてきている。個人的意見ではあるが、この自動計測値は基本的に信頼し実用してよいと考えている。ただし最終判断は医師の確認が必要であることを忘れてはならない。

4.低Ca血症とQT延長症候群

定常状態の心筋細胞の静止膜電位が陽性に荷電し心筋興奮をきたす過程は、心筋細胞へのNa流入、Caの流入、心筋細胞からのK放出という順のプロセスを経て起こる現象である。

簡単に解説すると心筋細胞内へのNa流入は脱分極を誘導し、これは12誘導心電図のQRS波に相当する。その後活動電位の維持、すなわちプラトー相維持のために心筋細胞内にCa流入が起こり、この部分が12誘導心電図のST部分に、その後のK放出により電位が下降し再分極相を形成する。12誘導心電図ではT波以降を反映すると言われている。

低Ca血症ではCa流入の際に働く電位依存性Caチャネルが開きにくくなり、Ca流入に時間を要することになる。すなわち、ST部分が延長することによるQT延長をきたす。

T波が平坦化し幅広くなることでQT延長を示す低K血症とは明らかに異なる。図に典型例を示すが、ST部分が顕著に延長している事が分かる(図1)。

5.低Ca血症と突然死

透析患者や慢性腎臓病患者を含む住民健診データにおいて、血清Ca濃度が低いほど、心臓突然死と関連することが報告されている1)

また我が国の維持透析患者レジストリーデータにおいて、血清Ca値と予後の関連を見た解析結果2)では、時間平均モデルでの解析においてのみ、Ca8.51-9.0mg/dLの患者の死亡リスクを1としたとき、Ca値8.5mg/dL以下では有意に死亡リスクが高くなる関連が見いだせることを報告している。

ただし、この解析は致死性不整脈を想定させる突然死との関連ではなく、総死亡との関連であることを忘れてはならない。こういった報告をつなぎ合わせると、低Ca血症によりQT延長が誘導され、心臓死につながっていると解釈できなくもない。

6.透析患者とQT延長症候群

透析患者では高頻度にQT延長を合併する。上海からの報告では、透析前12誘導心電図において、QT延長を男性>440ms、女性>460msと定義したとき、検討した血液透析患者141例中、約65%がQT延長と診断されている。また、OTc計測を目的とした研究ではないが、宮崎県のコホート研究において、平均透析歴7年前後の維持血液透析患者474例の安静12誘導心電図でのQTcは中央値で約440msecであり3)、また我が国の透析導入患者208例のQTc中央値は、約460msecであると報告されている4)

いずれも、上述した正常上限値に近い値が中央値に相当しており、QT延長と診断される症例が多く潜在すると推察される。参考までに、健常人、薬剤誘発性QT延長の症例、先天性QT延長症候群の症例の、それぞれの通常状態での平均QTcは406、453、478msecと報告5)されており、末期腎臓病患者の値は先天性QT延長症候群の値とそれほど変わらない事が分かる。

7.透析患者におけるQTcと心臓突然死

930例(16%は非透析患者)の末期腎臓病患者を対象に、腎移植前の検査として行った12誘導心電図におけるQTcと総死亡との関連を見た研究がある6)

QTc450msec以下の患者の死亡リスクを1とした時、450msecを上回る患者では約1.7倍死亡リスクが高いことが示されている。しかしながら維持透析患者においてQTcが心臓突然死と関連することを証明した論文は限られている。

ホルター心電図からのQTcと死亡との関連を調査したイタリアからの報告7)では、一つの傾向が見いだせる。

生存透析患者、非心血管死患者、突然死を除く心血管死患者、突然死患者の順に登録時のQTcが延長する関連が男性、女性ともに認められている。したがって、透析患者に高頻度に認められるQTc延長は心臓突然死を含む死亡の予見因子となりうる可能性がある。

8.血液透析療法とQT延長

(1)透析液とQT延長

日本透析医学会の統計調査の報告では、透析後の血清K値が3.5mEq/L未満の患者が40%以上存在する。本日のテーマは、低Ca血症であるが、透析後に下がって当たり前と考えている、下がるほど良いとも考えがちであるKは、QT延長を誘導し、透析後の致死性不整脈発症に関連している可能性は否めない。透析液のCa濃度、K濃度と透析中のQT時間を検証した報告がある8)

透析液K濃度2および3mmol/L、Ca濃度1.25、1.5、1.75mmol/Lのそれぞれの組み合わせで血液透析を行った時のQT時間の変化を検証している。図2に示す通り透析液Ca濃度が下がるほど、また透析液K濃度が下がるほどQT時間が延長していることがわかる。すなわち透析医療に携わる者は透析液の組成によりQT時間が変化し致死性不整脈につながるリスクが変化していることを認識していなければならない。

(2)カルシウム受容体作動薬とQT延長

カルシウム所様態作動薬はCa低下を介してQT延長を招く。周知のごとく、我が国で使用可能である、シナカルセト、エボカルセト、エテルカルセチド、いずれもCa低下とQT延長を重要な事象としてとらえ、十分に配慮し使用することを注意喚起している。

小規模な研究であるがシナカルセトの使用容量が増加とベースラインからのQT延長変化の間に正の関連が認められることが報告されている9)。ただしこの延長は最も延長した症例でも20msecにとどまっており、それほど危険な延長を認めていない。

一方で症例報告10)では、paricalcitol併用下でシナカルセトを60mgから90mgまで増量後にイオン化Ca値0.71mmol/L、著明なQT延長(心電図上500msec以上と推定)を認めtorsades de pointes(トルサデポアン)発症に至った報告がなされている。

(3)血液透析前後のCa変動と心臓突然死

透析前の患者のCa値と透析液のCa濃度のギャップが大きいほど、突然の心停止のリスクが高くなることも報告されている11)

この論文では、透析液Ca濃度が2.5mEq/L未満、透析前補正Ca値が高いほど、突然の心停止と関連することを示している。興味深いことに、透析前Ca値と透析液Ca濃度のギャップが大きいほど、具体的にはこのギャップが1mEq/L上昇するごとに1.4倍心停止と関連するとしている。残念ながらQT延長については検討していないが、透析中の急激なCa変動とQT延長からの不整脈発症と関連つけたくなる結果である。実際に、透析中の血中K、Ca濃度の変化とQT時間の変化には負の関連が認められることが報告されている(図3)。

9.おわりに

透析診療とQT延長とCa動態は切っても切れない関係にある。今後、定時の12誘導心電図では、今までのようにただST-T変化を見て左室肥大や虚血性心疾患を鑑別していた時代から、QTcが経過とともにどのように変化していくかを検討する時代になるかもしれない。あるいは心電図を行う時間帯も透析前後で意識しなければならないのかもしれない。

参考までに循環器学会のガイドラインでは、絶対値としてQTc500msec以上、変化として60msec以上の延長が認められたとき、臨床上大きな注意を払う必要があることを強調している。今後、透析診療の現場からもQT延長にかかわる多くの研究が生み出されることに期待したい。

文献

  1. Yarmohammadi H, et al. Serum Calcium and Risk of Sudden Cardiac Arrest in the General Population. Mayo Clin Proc 2017, 92(10):1479-1485.
  2. Taniguchi M, et al. Serum phosphate and calcium should be primarily and consistently controlled in prevalent hemodialysis patients. Ther Apher Dial 2013, 17(2):221-228.
  3. Sato Y, Hayashi T, Joki N, Fujimoto S. Association of Lead aVR T-wave Amplitude With Cardiovascular Events or Mortality Among Prevalent Dialysis Patients. Ther Apher Dial 2017, 21(3):287-294.
  4. Matsukane A, Hayashi T, Tanaka Y, Iwasaki M, Kubo S, Asakawa T, Takahashi Y, Imamura Y, Hirahata K, Joki N et al. Usefulness of an Upright T-Wave in Lead aVR for Predicting the Short-Term Prognosis of Incident Hemodialysis Patients: A Potential Tool for Screening High-Risk Hemodialysis Patients. Cardiorenal medicine 2015, 5(4):267-277.
  5. Itoh H, et al: The genetics underlying acquired long QT syndrome: impact for genetic screening. European heart journal 2016, 37(18):1456-1464.
  6. Flueckiger P, et al. Associations of ECG interval prolongations with mortality among ESRD patients evaluated for renal transplantation. Ann Transplant 2014, 19:257-268.
  7. Genovesi S, et al. A case series of chronic haemodialysis patients: mortality, sudden death, and QT interval. Europace: European pacing, arrhythmias, and cardiac electrophysiology: journal of the working groups on cardiac pacing, arrhythmias, and cardiac cellular electrophysiology of the European Society of Cardiology 2013, 15(7):1025-1033.
  8. Genovesi S, et al. Electrolyte concentration during haemodialysis and QT interval prolongation in uraemic patients. Europace : European pacing, arrhythmias, and cardiac electrophysiology : journal of the working groups on cardiac pacing, arrhythmias, and cardiac cellular electrophysiology of the European Society of Cardiology 2008, 10(6):771-777.
  9. Temiz G, et al. Effects of cinacalcet treatment on QT interval in hemodialysis patients. Anatol J Cardiol 2016, 16(7):520-523.
  10. Novick T, et al. Cinacalcet-associated severe hypocalcemia resulting in torsades de pointes and cardiac arrest: a case for caution. Eur J Clin Pharmacol 2016, 72(3):373-375.
  11. Pun PH, et al. Dialysate calcium concentration and the risk of sudden cardiac arrest in hemodialysis patients. Clin J Am Soc Nephrol 2013, 8(5):797-803.

Contents

第1章
CKD-MBD診療ガイドラインレビュー
(IMSグループ板橋中央総合病院腎臓内科部長 / 腎臓ネット代表)塚本 雄介
第2章
A)カルシミメティクスをめぐる最新のエビデンス
(昭和大学藤が丘病院腎臓内科教授)小岩 文彦
B)カルシミメティクス治療の問題点
(ア)消化器症状
(日高会日高病院腎臓病治療センター研究統括部長
 東京女子医科大学東医療センター客員教授)永野 伸郎
(イ)低カルシウム血症
(東邦大学医療センター大橋病院腎臓内科准教授)常喜 信彦
第3章
ビタミンD療法のUp-To-Date
(大阪市立大学大学院医学研究科血管病態制御学研究教授)庄司 哲雄
第4章
カルシミメティクス時代の副甲状腺摘出術の意義と位置付け
(東海大学医学部付属八王子病院腎内分泌代謝内科教授)角田 隆俊

Menu

この特集トップへ戻る
腎臓ネットTOPページに戻る