第3章:

ビタミンD療法のUp-To-Date

大阪市立大学大学院医学研究科血管病態制御学研究教授 庄司哲雄

1.はじめに

「ビタミンD療法のup-to-date」というお題をいただきました。活性型ビタミンDがPTH管理に果たしている意義は確立されていますので、本稿では「健康長寿ホルモン」としてのビタミンDについて、透析患者さんを含めた慢性腎臓病(CKD)患者さんにおける観察研究および介入研究の現状について述べたいと思います。

2.観察研究と介入研究

本稿では「観察研究」「介入研究」という用語が何度もでてきますので、最初にご説明をしておきたいと思います。患者さんを対象とした臨床研究は、研究の仕方(研究デザインと呼ばれます)によって大きく「観察研究」と「介入研究」に分類されています。通常の治療経過で得られたデータを解析するのが「観察研究」で、文字通り患者さんの様子を観察する研究です。

一方、患者さんに研究目的で決められた治療を受けていただき、その治療を受けなかった患者さんたちと比較して治療の効果を確認するというのが「介入研究」です。介入研究の代表はランダム化比較試験(RCT)と呼ばれるもので、患者さんを二つの群にランダムに割付し、異なる治療を受けていただき予め決めてある評価項目を2群で比較するというタイプの研究です。

3.研究デザインでわかることが違う

観察研究、例えばコホート研究では「血清P値が管理目標範囲内の患者さんと比べると、血清P値が高い透析患者さんでは死亡リスクが高い」という「予後」に関する重要な情報が得られます。

一方、介入研究では「スタチンでコレステロールを下げる治療をすると、しない群に比較して、心筋梗塞発症のリスクが低下する」という「治療効果」についての情報が得られます。どちらかが優れているということではなく、本来は目的によって研究デザインが選ばれるという点に注意が必要です。

4.ビタミンDとは

さて、本論のビタミンDに入ります。体内のビタミンDは主にコレカルシレロール(D3)で、紫外線により皮膚で合成されるものと、動物性食品から摂取されるものがあります。エルゴカルシフェロール(D2)はキノコなどの植物性食品から摂取されるビタミンDです。これらのビタミンDは1位、25位の炭素は水酸化されていませんが、肝臓で25位が水酸化されます。

血清25(OH)ビタミンD濃度は栄養型ビタミンDの指標になります。通常の方法ではビタミンD2とD3を区別して測定できませんので、血清25(OH)ビタミンD濃度は両者の合計になります。

5.ビタミンDが作用を発揮するには

ビタミンDは核内受容体であるビタミンD受容体(VDR)に結合し、標的遺伝子の転写を調節することで様々な生理作用を発現させます。代表的作用は骨・ミネラル代謝への作用ですが、VDRは循環器系、内分泌系、免疫系、神経系の臓器・組織などにも分布するため、多面的作用が想定されています。

6.ビタミンDの活性化

ビタミンDは肝臓で25位が水酸化されて25(OH)VDとなり、さらに腎臓の1α水酸化酵素で1位が水酸化されて、生物学的活性の強いカルシトリオール(1α,25(OH)2VD、あるいは単に1,25(OH)2VD)になります。25(OH)VDに比べ1,25(OH)2VDは核内VDRに約1000分の1の濃度で結合できるため、生理活性が1000倍高いと表現されます。1,25(OH)2VD は天然の活性型ビタミンDです。

7.活性型ビタミンDとVDRA

腎不全では腎臓での1α水酸化が障害されるため、活性型ビタミンD不足に陥ります。これを解決するために、あらかじめ1位を水酸化したアナログ(構造類似体という意味です。デジタルとは無関係です)であるアルファカルシドールが日本で開発されました。

アルファカルシドールは生体内で肝臓での25位の水酸化を受けてカルシトリオールに変換されるため、これも「活性型ビタミンD製剤」と呼ばれています。さらに、カルシトリオールの構造を修飾したアナログ製剤としてファレカルシトリオール、マキサカルシトールやparicalcitol(本邦未承認)などが臨床で使用されておりましてます。

従来、これらは「活性型ビタミンD製剤」と呼ばれてきましたが、最近はVDR Activator (VDRA)という用語で呼ばれることが増えてきました。活性型ビタミンDとVDRAは同義で用いられています。

8.CKDにおけるVDRA使用の意義

通常CKDでVDRAを投与するのは、副甲状腺ホルモン(PTH)分泌が不適切に高まった二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT)、あるいは低カルシウム血症を呈する場合であろうと思われます。

添付文書によると、カルシトリオール、マキサカルシトールといった静注製剤は後者にのみ適応がありますが、アルファカルシドールの適応症は①慢性腎不全、副甲状腺機能低下症、ビタミンD抵抗性クル病・骨軟化症におけるビタミンD代謝異常に伴う諸症状(低カルシウム血症、テタニー、骨痛、骨病変等)の改善、②骨粗鬆症となっていますので、低カルシウム血症の是正などにより広く使用できることになります。

SHPTに対してVDRAを用いると、血清PTH値が下がると同時に血清Ca値が上昇すること多いと思います。PTHを下げるために経口VDRAを投与すると、特に透析液のCa濃度が高めであった時代には、高Ca血症のためにVDRAを十分量投与できないという「歯がゆい」ことがよくありました。

そこで、塚本雄介先生が考案された「経口ビタミンDパルス療法」が用いられました。その後、静注VDRAが利用できるようになると「静注ビタミンDパルス療法」が主流になってきました。Ca上昇作用が小さいといわれるマキサカルシトールの場合、透析終了時に0.5μgの静注を週3回で開始し、血清P、Ca値を月2回程度、また血清PTH値を月1回程度確認しながら、投与量を漸増していくという治療法が定着しました。

9.保存期CKDにおけるVDRAへの懸念

話は透析患者さんから透析前の腎不全患者さんに替わります。腎機能が低下している高齢の患者さんは、骨粗しょう症の合併も多いため、プライマリケア医のもとでは骨粗しょう症に対してカルシウム製剤と活性型ビタミンD製剤を併用される場合がよくあります。

特に問題なく投与が継続できている症例も多い一方で、時に高Ca血症(高Ca尿症)から急性腎障害(AKI)に陥り、腎臓内科に緊急入院になる症例があるのも事実です。

こういう事態を避けるには、血液検査などで慎重にモニタリングしながらの治療が大切になります。もしあなたが、同様の治療を受けておられるようでしたら、主治医の先生に定期的な血液検査で腎機能や血清Ca値、P値などをチェックしてもらうようにしましょう。

10.VDRAの腎保護への期待

一方で、コホート研究1)によると、血清1,25(OH)2VD濃度が低い群はその後CKDに至るリスクが高いという報告があります。もしかしたら活性型ビタミンDを投与すれば腎保護に働くのではないかと期待されるデータです。

VDRAがレニン・アンジオテンシン系を抑制するという実験的事実2)から、腎保護という有益性が、少なくとも一部のCKD症例にはあるのかもしれません。しかしそれは介入研究で確認しなければ、確かなことは申せません。

VDRA使用によるアルブミン尿低下作用を検証したRCT3)もありますが、低下傾向はあるものの有意差なしという結果になりました。VDRAにより腎保護効果があるともないとも、決着はついていません。

11.透析治療期CKDにおけるVDRAへの懸念

透析患者さんにおいてVDRAはPTHを低下させるものの、高Ca血症や高P血症を増悪させるため、血管石灰化を促進する(だろう)、その結果CVDリスクを高める(だろう)という議論が以前からありました。しかしそういう確たる事実はないまま議論されていたのです。

透析患者さんを血管石灰化の有無で分けて比較した横断研究4)によると、VDRAの投与量には両群間で差はなく、石灰化ありの群ではCa含有リン吸着薬の投与量が多いという結果でした。また、2年間の血管石灰化の変化とVDRA投与量との関係をみた観察研究5)では、血管石灰化が進行した群でVDRA投与量は有意に少なかったと報告されています。これらの観察研究の結果からは、VDRA使用と血管石灰化との間には、議論されているような関係はないことを示しています。

VDRA治療により、血管石灰化抑制因子であるFetuin A濃度が上昇するという報告6)もあり、むしろVDRAは血管石灰化を抑制するのではないかと議論することも可能です。いずれにしろVDRA治療を行えば血管石灰化が悪化するのか予防されるのかについて、決着はついていません。

12.透析治療期CKDにおけるVDRAへの期待

透析患者さんの観察コホート研究では、VDRA使用群は、非使用群に比較し、総死亡リスク7)、CVD死亡リスク8)、CVD発症リスク9)が低いということが示されています。

ここでご注意いただきたいのは、コホート研究では「VDRAを投与したからこれらのアウトカムが改善した」ということはできないということです。

観察研究の結果からはそういう「仮説」が設定されるのですが、それを確かめるのは介入研究で、RCTで検証されて「証明された」ということになるのです。いくつかのRCTが実施され、期待が高まりました。

13.RCTではどんな結果がでたか

表1にCKDを対象としてVDRAによる心血管系への効果を検証した3つの代表的RCTを要約いたしました。

VDRAはレニン・アンジオテンシン系抑制作用を有することから、心肥大を抑制すると期待されました。それを実証しようとして欧米で実施されたPRIMO試験10)は、保存期CKD患者さんを対象とし、48週間の経口Paricalcitolによる左心室重量係数(LVMI)に対する効果を検証しようと実施されました。しかし、予想に反して、プラセボ(偽薬)との間で効果に差は認められませんでした。

同じ仮説を検証するために実施されたOPERA試験11)はアジアで実施されたもので、52週間の経口ParicalcitolによるLVMIに対する効果をプラセボと比較しましたが、やはり群間比較では有意差は認められませんでした。

J-DAVID試験は、わが国の血液透析患者さんを対象に経口アルファカルシドールの心血管イベント抑制効果を検証しようとした4年間のRCTです。比較群として「VDRA非投与群」を設定する必要があったため、通常VDRAの処方が考慮されるSHPTのある症例は対象から除外するという倫理的配慮がとられました。

つまり、VDRAを使用せずにintact PTH≦180 pg/mLであった患者さんだけが登録されたという点には注意が必要です12)。結果、心血管イベント発生率について両群で有意差は認められませんでした12)

予想に反して、統計学的には有意ではないものの、ハザード比は1.25とリスクが高まる傾向があったことは後で議論したいと思います。

表1:CKD患者さんにおけるVDRAの心血管系への効果を検証した代表的RCT

  PRIMO試験10) OPERA試験11) J-DAVID試験12)
対象 CKD stage G3-4
SHPTあり
N=227
CKD stage G3-5
SHPTあり
N=60
CKD stage 5D (HD)
SHPTなし
N=976(ランダム化)
N=964(解析対象)
介入 経口paricalcitol
2μg/day
経口paricalcitol
1μg/day
経口アルファカルシドール
0.5 μg/day(開始用量)
比較 プラセボ プラセボ VDRA非使用
主要評価項目 48週間における左室重量係数(LVMI)の変化 52週間における左室重量係数(LVMI)の変化 48カ月間における複合心血管イベント
結果 有意差なし 有意差なし 有意差なし

(著者作成)

14.なぜRCTは観察コホート研究と同じ結果にならなかったのか?

前述のように、保存期CKD患者さんや透析患者さんを対象としたコホート研究では、「VDRA治療中であること」は総死亡、CVD死亡、あるいはCVD発症リスクが低いことと関連しています。

一方、RCTにおいては「VDRA治療を行う」ことにより左室肥大、CVDイベント、総死亡リスクの抑制効果は認められず、CVDリスクの低下も認められませんでした。コホート研究と介入研究で得られる結果がこのように食い違うのは、どう理解すればよいのでしょうか?

もともとコホート研究は治療効果を検証するデザインではないため、治療効果についてはRCTの結果を優先して考えるべきだと思います。であれば、コホート研究の結果は何らのバイアスの影響を受けているということになると思われます。いくつかの可能性を考えてみましょう。

15.コホート研究に「治療バイアス」はなかったか?

第1は、一般に、薬剤を処方する時には、全身状態のよい患者さんに投与されやすい(予後があまりにも悪そうな患者さんには投与を控える)というバイアス(Treatment by indicationバイアス)が生じうるといわれています。主治医が直観的に判断する「全身状態」は、多変量モデルに含まれる変数では調整しきれていないという可能性があります。

透析患者さんのVDRA処方にも当てはまるのではないかという意見があります13)。しかし、「この患者さんは予後がよさそうだからVDRA処方をする」ということってあるでしょうか?

担当医は患者さんの死を何年も前に感じ取れますか?

仮に感じ取れたとして、それがVDRA処方に影響するでしょうか?

逆に「長寿ホルモン」との期待が持たれていたお薬ですので、予後の悪そうな患者さんに処方しやすいという逆のバイアスを想定することすら可能ではないでしょうか。個人的な意見として、「治療バイアス説」は当たっていないと思っています。

16.コホート研究に「治療中止バイアス」はなかったか?

第2に、VDRAを投与すると血清Caが上昇しやすいですが、Caの上昇に個人差があるかもしれません。もしそうあれば、投与継続が可能な症例と、中止せざるを得ない症例が生じることになります。このような想定がもし正しければ、コホート研究の「VDRA使用中の群」には血清Caが上昇しにくい患者さんがたくさん含まれており、「VDRAを使用していない群」には逆に高Ca血症をきたしやすい患者さんがより多く含まれるものと考えられます。

このようなVDRAに対する反応性の違いは、おそらく遺伝素因によると思われます。遺伝情報は通常の観察研究には含まれていないため、多変量モデルでも調整されていません。最近よく見かける傾向スコア(propensity score)マッチングという統計技法を用いても、遺伝素因に対しての調整ができていないという点は同じです。

予後に関係しているのは、実はVDRAの使用の有無ではなく、VDRAが継続できるかどうかという遺伝素因であるという可能性がでてくるわけです。前項の「治療バイアス」では投与開始にバイアスがあると考えますが、ここでいう「治療中止バイアス(筆者注:筆者が付けた呼び方であり、公式に認められている用語かどうかは未確認です)」は投与開始(主治医側)ではなく、投与継続可能性(患者さん側)に潜むバイアスの可能性を指摘するものです。個人的には、VDRAではこちらの要因が大きいのではないかと考えています。

17.コホート研究とRCTで患者対象群は同じといえるのか?

第3に、RCTとコホート研究の結果の食い違いは、対象となった患者さん群の構成の違いで説明できるかもしれません。VDRAが有益かどうかという面で「患者さんは均一ではない」のではないかと考えられます。ある患者さんには有益だが、別の患者さんには有害ですらある治療もある、そう考えてみましょう。

ここで、VDRAが有益な患者さん(A)、有害な患者さん(C)、いずれでもない患者さん(B)の3つのサブグループがあると仮定してみましょう。研究対象にサブグループAが多数含まれている場合は、対象群全体でみると「VDRAは有益」であるという結論になるでしょう。逆にサブグループCが多数含まれる研究対象で行われた別の研究では、「VDRAは有害」という結論がでると思われます。サブグループBが多数の場合や、AとCが同数である場合には、VDRA治療は有益でも有害でもないと結論されてしまいます。

治療反応性に不均一性を想定すると、まったく同じRCTを別の集団で行えば、逆の結果すら生じうるということです。臨床研究の結果を解釈する場合には、単に結果だけではなく、どのような症例が研究対象になっているのかを「選択基準」「除外基準」をよく読んで確認することが大切です。

18.VDRAに対する治療反応性をどう見極めるか

蛋白尿が高度なネフローゼ症候群を呈する症例に対して、ステロイド治療は標準治療のひとつです。しかしステロイドには副作用もありますし、ステロイドが効果を示しにくい病型もあるため、ステロイド治療は「ネフローゼの患者さん全員に対して有益」とはいえません。そこで腎生検などを行って「治療の有益性」を事前に見極めようとするわけです。

これと同様に、特定の患者さんに対してVDRAが有益か有害かを、事前に見分けることができれば話は単純になるはずです。どうすれば事前に見極めることができるのでしょうか?

何らかの遺伝子多型や遺伝子変異をスクリーニングできれば、事前見分けに役立つかもしれません。しかし、VDRA治療による予後の違いを遺伝子多型で比較した研究はありません。また、実診療では遺伝子検査はルーチーンには実施されていません。投与前の年齢、性別、透析年数、原疾患、CVD既往の有無、透析条件、ラボデータ、生理学的検査などで、事前見分けができるかどうか、予測モデルを作成してみる価値はあると思われますが、現時点では存在しません。

そこで、事前の見分けではありませんが、投与初期にラボデータの変化をモニターし、その結果から有益性を予測することができれば現実的かもしれません。例えば「VDRA投与によって極端な高Ca血症を呈する場合はVDRA治療に向かない」と判断する方法を確立できれば、役に立つかもしれませんが、現時点ではそのような方法は分かっていません。

19.VDRAかCa受容体作動薬か

SHPTの主たる治療薬としては、VDRAとCa受容体作動薬(カルシミメティクス, CaSRアゴニストとも呼ばれます)の大きく分けて二種類があります。VDRAは血清CaやP値を上昇させるのに対し、Ca受容体作動薬は血清CaやPを低下させます。一方で、観察コホート研究では血清Ca, P値が高いと死亡リスクが高いことが示されています。これらの情報を勝手に結びつけますと、SHPT治療においてCa受容体作動薬はVDRAより死亡リスクを低下させるのではないかという仮説を立てることができます。しかし、例えば死亡率をCa受容体作動薬治療群とVDRA治療群で比較するようRCTは実施されていませんので、決着のついていない点です。

EVOLVE試験14)ではSHPTを合併する透析患者さんを対象とし、試験薬としてシナカルセトとプラセボを投与して、心血管系の複合エンドポントの差を検証しようとしました。全体の57.5%の患者さんには経口あるいは静注のVDRAが投与されていたので、結果的に半数以上ではVDRA単独治療 vs. VDRA+Ca受容体作動薬併用療法の比較になっています。試験結果はどうだったでしょうか。事前に設定した解析では有意差は認められませんでした。実診療では、EVOLVEのプロトコールを参考に、VDRAとCa受容体作動薬の併用がしばしば行われています。併用することで、ガイドラインで推奨されるラボデータの管理目標値の達成が容易になるからだと思われます。しかし、この併用療法がどちらか単独治療よりCVDイベント抑制の点で優れているという確証はありません。

20.VDRAとCa受容体作動薬をどう使いわけるか?

ラボデータを管理目標値に収めることを主眼とした診療においては、その時点でのラボデータによって、いずれの治療薬を用いるのかが選ばれることになるでしょう。すなわち血清CaやP値が高めであればCa受容体作動薬が選ばれやすいであろうし、逆の場合にはVDRAが選択されることになりやすいと思われます。

しかし、同じラボデータを達成しても、達成するための方法が異なる場合に、死亡率などのアウトカムが同じであるとは限りません。例えば、肥満患者さんが目標体重を達成するために、摂取エネルギー量を減らした場合と、運動量を増やした場合を比べて、健康指標に対して結果が同じとは考えにくいのと同じです。

そもそも、血清P, Ca, intact PTHの管理目標値は観察コホート研究から導かれたものであり、RCTによって定められたものではありません。異なる治療を実施した場合に、ラボデータ管理目標値の上限下限も異なる基準を用いるべきかもしれません。

21.CKD-MBD治療でどんなアウトカムを改善できるのか?

VDRA治療に加えてシナカルセトが使用できるようになって、副甲状腺摘出術(PTX)の件数は大幅に減少しました。またEVOLVE試験のサブ解析15)からは、Calciphylaxisが減少するということも報告されています。骨ミネラル代謝異常については期待される役割をはたしていると思われます。

一方、上述のようにVDRA治療により心血管系のアウトカムが改善できるというRCTの結果は得られませんでしたし、同様にCa受容体作動薬、リン吸着薬でも死亡率や心血管系アウトカムを改善できるという確たるエビデンスは得られていません。

エビデンスがないからそのような治療に意味がないといっているのではありません。どの治療薬のRCTをみても、患者さんを均一な集団とみなして試験されていますので、全体として有意な結果が得られにくいのだと思います。

22.おわりに―サルコペニア・フレイルにCKD-MBD治療は有益か?

ビタミンDと筋肉に関連があるといわれています。VDRを欠損した動物では、骨格筋に問題があり16)、ビタミンDと骨格筋、筋力との関連性に関心が持たれています17)

腎不全で生じるサルコペニアの病態にVDRAは役立つのでしょうか。現時点では、VDRAでサルコペニアを改善できるというRCTによるエビデンスはありません。高齢化が著しい現代の透析患者さんの治療において、栄養型・活性型ビタミンDに新しい意義が明らかになるかもしれません。

文献

  1. Izumaru K, et al.: Serum 1,25-dihydroxyvitamin D and the development of kidney dysfunction in a Japanese community. Circ J, 78:732-737, 2014.
  2. Li YC, et al.: 1,25-Dihydroxyvitamin D(3) is a negative endocrine regulator of the renin-angiotensin system. J Clin Invest, 110:229-238, 2002.
  3. de Zeeuw D, et al.: Selective vitamin D receptor activation with paricalcitol for reduction of albuminuria in patients with type 2 diabetes (VITAL study): a randomised controlled trial. Lancet, 376:1543-1551, 2010.
  4. London GM, et al.: Arterial media calcification in end-stage renal disease: impact on all-cause and cardiovascular mortality. Nephrol Dial Transplant, 18:1731-1740, 2003.
  5. Ogawa T, et al.: Relation of oral 1alpha-hydroxy vitamin D3 to the progression of aortic arch calcification in hemodialysis patients. Heart Vessels, 25:1-6, 2010.
  6. Manenti L, et al.: Increased fetuin-A levels following treatment with a vitamin D analog. Kidney Int, 78:1187; author reply 1187-1189, 2010.
  7. Teng M, et al.: Activated injectable vitamin D and hemodialysis survival: a historical cohort study. J Am Soc Nephrol, 16:1115-1125, 2005.
  8. Shoji T, et al.: Lower risk for cardiovascular mortality in oral 1alpha-hydroxy vitamin D3 users in a haemodialysis population. Nephrol Dial Transplant, 19:179-184, 2004.
  9. Shoji T, et al.: Use of vitamin D receptor activator, incident cardiovascular disease and death in a cohort of hemodialysis patients. Ther Apher Dial, 19:235-244, 2015.
  10. Thadhani R, et al.: Vitamin D therapy and cardiac structure and function in patients with chronic kidney disease: the PRIMO randomized controlled trial. JAMA, 307:674-684, 2012.
  11. Wang AY, et al.: Effect of Paricalcitol on Left Ventricular Mass and Function in CKD--The OPERA Trial. J Am Soc Nephrol, 25:175-186, 2014.
  12. The J-DAVID investigators: Effect of oral alfacalcidol on clinical outcomes in patients without secondary hyperparathyroidism receiving maintenance hemodialysis: The J-DAVID randomized clinical trial. JAMA 320: 2325-2334, 2018.
  13. Tentori F, et al.: The survival advantage for haemodialysis patients taking vitamin D is questioned: findings from the Dialysis Outcomes and Practice Patterns Study. Nephrol Dial Transplant, 24:963-972, 2009.
  14. Evolve_Trial_Investigators, et al.: Effect of cinacalcet on cardiovascular disease in patients undergoing dialysis. N Engl J Med, 367:2482-2494, 2012.
  15. Floege J, et al.: The Effect of Cinacalcet on Calcific Uremic Arteriolopathy Events in Patients Receiving Hemodialysis: The EVOLVE Trial. Clin J Am Soc Nephrol, 10:800-807, 2015.
  16. Endo I, et al.: Deletion of vitamin D receptor gene in mice results in abnormal skeletal muscle development with deregulated expression of myoregulatory transcription factors. Endocrinology, 144:5138-5144, 2003.
  17. Molina P, et al.: Vitamin D, a modulator of musculoskeletal health in chronic kidney disease. J Cachexia Sarcopenia Muscle, 8:686-701, 2017.

Contents

第1章
CKD-MBD診療ガイドラインレビュー
(IMSグループ板橋中央総合病院腎臓内科部長 / 腎臓ネット代表)塚本 雄介
第2章
A)カルシミメティクスをめぐる最新のエビデンス
(昭和大学藤が丘病院腎臓内科教授)小岩 文彦
B)カルシミメティクス治療の問題点
(ア)消化器症状
(日高会日高病院腎臓病治療センター研究統括部長
 東京女子医科大学東医療センター客員教授)永野 伸郎
(イ)低カルシウム血症
(東邦大学医療センター大橋病院腎臓内科准教授)常喜 信彦
第3章
ビタミンD療法のUp-To-Date
(大阪市立大学大学院医学研究科血管病態制御学研究教授)庄司 哲雄
第4章
カルシミメティクス時代の副甲状腺摘出術の意義と位置付け
(東海大学医学部付属八王子病院腎内分泌代謝内科教授)角田 隆俊

Menu

この特集トップへ戻る
腎臓ネットTOPページに戻る