第2章:

ADPKD発症進展の分子構造

順天堂大学大学院泌尿器科外科学教授 堀江重郎

1.ADPKDの遺伝子異常

ADPKDは 主にPKD1(染色体16p13.3)、またが PKD2(染色体4q22.1)の遺伝子異常により起こります。遺伝子異常によりPKD1、 PKD2がそれぞれコードするポリシスチン蛋白である、PC 1あるいは PC 2の細胞内蛋白量の減少が、嚢胞形成を起こします。PC 1と PC 2は主に細胞の繊毛(cilia)でヘテロダイマーを形成します。 PC 2は陽イオンのチャネルであり TRP ファミリーに属しています。一方 PC 1の機能あるいはPC 1, PC 2複合体の機能についてはまだよくわかっていません。

ADPKDでは、PKD1遺伝子異常が約80%に PKD2遺伝子異常が約15% の患者にみられますが、残りの患者については PKD1, PKD2には遺伝子異常が見られません。次世代シークエンサーNGSにより、遺伝子変異の検出頻度が上がりましたが、PKD1のエクソン1はGC配列が多く、シークエンスが難しいことが一つと考えられます。また、腎嚢胞形成に関与する遺伝子は100程度あり、これらの遺伝子の複合的な遺伝子異常も、ADPKD に似た表現型を持つ ADPKD-like の病態を呈します[1]

このような症例ではPKD関連遺伝子の転写因子であるhepatocyte nuclear factor 1β (HNF1B)、neutral α- glucosidase AB (GANAB)、DNAJB11などの遺伝子異常が見られます。また 多発性嚢胞肝と関係する 遺伝子である SEC63(小胞体内の蛋白をコードする)、 PRKCSH、 LRP5、ALG8、 SEC61Bなどの遺伝子異常もADPKDに似た病態を示すことが報告されています。またuromodulin (UMOD), mucin 1 (MUC1), renin (REN)、SEC61A などの遺伝子は、常染色体優性遺伝性尿細管間質性腎疾患 (ADTKD) の原因遺伝子ですが、ADTKDはADPKDに間違えられることがあります。

PKD1は結節性硬化症の原因遺伝子であるTSC2の隣にあるため、この2つの遺伝子を含む遺伝子の欠失が起こると、結節性硬化症とADPKDを共に発症することがあります[2]

  遺伝子名 機能またはコードする蛋白
常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)の責任遺伝子 PKD1 膜蛋白
PKD2 陽イオンチャネル
ADPKDと合併しやすい遺伝子異常 HNF1B PKHD1、PKD2の転写因子
GANAB 蛋白の立体構造構成
DNAJB11 分子シャペロン
常染色体優性多発性嚢胞肝(ADPLD)の責任遺伝子 SEC63 小胞体蛋白輸送
PRKCSH 蛋白の立体構造構成
GANAB alpha subunit of glucosidase II
LRP5 WNTの受容体
ALG8 α-1,3-glucosyltransferase
SEC61B 小胞体蛋白輸送
常染色体劣性多発性嚢胞腎(ARPKD)の責任遺伝子 PKHD1 1アレルのみの遺伝子異常
常染色体優性尿細管間質性腎疾患(ADTKD)の責任遺伝子 UMOD uromodulin
MUC1 mucin 1
REN renin
SEC61A 小胞体蛋白輸送
遺伝性血管障害,腎症,動脈瘤,筋けいれん(HANAC)症候群 COL4A1 collagen type IV alpha 1 chain
伴性劣性遺伝繊毛病 (X-linked ciliopathy) OFD1 X染色体の中心体蛋白

PC1は、4,303個のアミノ酸よりなる、11膜貫通型の大きな分子です。N末端は細胞外にあり非常に長く、C末端は200個のアミノ酸よりなる短い領域ですが、ここでPC1とPC2分子が協同して細胞内カルシウム濃度の制御にかかわっています[3]

ADPKDの患者は 生殖細胞系列において PKD1または PKD2の異常が見られますが、嚢胞の発生には、残った野生型の遺伝子にも異常が起こることが必要と考えられています。

結果として細胞内のPC 1あるいは PC 2の蛋白量の低下が嚢胞形成に関係すると考えられています。また別の遺伝子異常や急性腎障害 (AKI) などの病態もADPKDの進行に関与している可能性があります[4]

PKD1またはPKD2の2つのアレルを共に欠損した場合は胎生致死になります。しかしPKD1, PKD2のともに一つのアレルに遺伝子異常がある場合は、胎生致死でなく出生後も生存し、重篤例になります。またPKDに別の嚢胞関連遺伝子の遺伝子異常を伴っている場合も若年発症をすることがあります。従って、小児発症のADPKDではPKDだけでなくゲノム全体の遺伝子解析が必要です[5]

少なくとも多発性嚢胞腎の患者の5~15%は家族歴が見られない、孤発例です。このことは新たな遺伝子異常が発生していることを示します。また家族内での表現型の違いは 細胞の中に遺伝子異常がある細胞とない細胞が混在するモザイク現象が関係すると考えられます[6]

2.嚢胞形成の分子機序

嚢胞は液体を含み、腎臓の尿細管上皮から外方に突出します。嚢胞はネフロン全体の1%程度に発生し、 PC 1と PC 2蛋白の細胞内濃度が低下した時に発症します。PC 1、 PC 2は 細胞膜の管腔側および側底側、繊毛、adherens junctions(接着結合), デスモソーム、などに局在しています[7]

さらに PC 2は 小胞体に局在し小胞体からのカルシウム輸送に関係します。PC1、PC2はサイクリック AMP、mTOR, WNT, VEGF, Hippoなどの活性制御や情報伝達にかかわっています。

嚢胞上皮細胞では細胞の増殖異常、液体の分泌、そして過剰な細胞外基質の沈着が主な病理学的な特徴です。細胞レベルでは嚢胞上皮細胞では、細胞の極性、あるいは細胞の集合体の平面内細胞極性 (planar cell polarity: PCP) の異常、 細胞外基質の増加と細胞内代謝の異常、液体分泌、細胞増殖、アポトーシス、細胞接着、細胞分化の異常が起こります。

細胞内カルシウム濃度の減少、サイクリックAMPの増加、RAS-RAF-ERKの酵素活性の上昇が 嚢胞細胞の増殖の重要なメディエーターになっています。

EGFR の発現増加や蛋白の 局在異常、 TGFαなどの細胞成長因子 の増加、さらに mTOR, PI3K–AKT, AMPK, STAT1, 3, 6), NFAT, NF-κB)などの細胞内情報伝達系の異常も見られます。嚢胞は近傍のネフロンの正常細胞に障害を与えアポトーシスを起こしその結果嚢胞が大きくなっていきます。[8]

ポリシスチン複合体は腎臓の上皮細胞の増殖を制御していると考えられます。PC1, PC2は、細胞接着、細胞骨格の ダイナミズムを制御しており、嚢胞上皮では細胞と細胞外基質の相互作用の変化に加えて、細胞と細胞接着にも異常が見られます。またADPKDでは細胞の極性と、TCP の異常が見られることから、PC1, PC2は腎臓の上皮細胞の分化を維持するのに重要と考えられています。

ADPKDでは初期から細胞外基質の増加と、炎症細胞、特にマクロファージの浸潤が見られます。PKD1とβ1 integrinをコードするItgb1を同時に欠損させた動物モデルでは、Pkd1欠損による嚢胞形成が抑制されます。したがって PC 1は細胞外基質とインテグリンの間のクロストークを抑えていると考えられます[9] 。またPC 1は細胞骨格のアダプタータンパクであるビンクリンやパキシリンとも 相互作用があります。

またADPKDでは細胞周囲の血管やリンパ管にも異常な構築が見られます。嚢胞は大きくなると元の尿細管とは 離れて拡張していきます。 腎実質は嚢胞により圧迫され、糸球体と尿細管のつながりは失われて、尿細管はアポトーシスに陥ります。またこの過程でケモカイン、サイトカインや細胞成長因子が間質の線維化細胞や炎症細胞に作用します。

サイトカインに媒介される、尿細管上皮と炎症細胞の異常な相互作用が、より炎症を強め腎実質の線維化を起こし、新たな嚢胞の形成と疾患の進行に繋がります。炎症は疾患の初期から起こりますが、 Pkd1ノックアウトマウスでマクロファージを除去すると腎嚢胞の表現型が軽減し、腎機能が改善します[10]。このため MIF(Macrophage migration inhibitory factor)が炎症を起こすサイトカインとして重要と考えられています。

3.ADPKDの腎外症状の分子機序

ADPKDは腎のみならず全身的な疾患であり、肝嚢胞や心血管の異常が見られます。多発性嚢胞肝は肝実質に多くの胆管上皮由来の嚢胞が形成されます。

ADPKD患者では心血管系の合併症(高血圧、左室肥大、大動脈瘤、心臓弁膜症、頭蓋内動脈瘤など)も起こります。これらの心血管系の病変は血管内皮細胞、血管平滑筋細胞におけるPC1, PC2蛋白量の減少に関係します。このことから、ポリシスチンは、血管系におけるメカノセンサーとして重要な役割を果たしていると言えます。

血管内皮細胞では、ポリシスチンは流体によるずれストレス応答に関与し、カルシウム情報伝達と、一酸化窒素NOの放出を制御します。血管平滑筋においては、血管内圧を感受し、ストレッチにより活性化する陽イオンチャネルと筋細胞の収縮の制御に働きます。大動脈瘤はポリシスチンの減少により圧感受性に異常が起こって発症すると考えられます。

まとめ

ADPKDはPKD1またはPKD2の遺伝子異常により発症します。少数例では嚢胞関連遺伝子の複合的な異常でも起こります。

PC1, PC2は細胞内の代謝に関与し、PKD遺伝子異常は尿細管細胞の極性や細胞内情報伝達に異常を起こし、結果として脱分化が起こり、異常増殖する、嚢胞上皮細胞となります。PC1, PC2は流体によるずれストレス応答に関与し、動脈瘤などの心血管合併症も高頻度に起こします。

文献

  1. Cornec- Le Gall, E., Torres, V. E. & Harris, P. C. Genetic complexity of autosomal dominant polycystic kidney and liver diseases. J. Am. Soc. Nephrol. 29, 13–23 (2018).
  2. Harris PC , The TSC2/PKD1 contiguous gene syndrome. Contrib Nephrol. 122:76-82 (1997)
  3. Hughes, J. et al. The polycystic kidney disease 1 (PKD1) gene encodes a novel protein with multiple cell recognition domains. Nat. Genet. 10, 151–160 (1995).
  4. Qian, F., Watnick, T. J., Onuchic, L. F. & Germino, G. G. The molecular basis of focal cyst formation in human autosomal dominant polycystic kidney disease type I. Cell 87, 979–987 (1996).][Bergmann, C. et al. Mutations in multiple PKD genes may explain early and severe polycystic kidney disease. J. Am. Soc. Nephrol. 22, 2047–2056 (2011).
  5. Bergmann, C. et al. Mutations in multiple PKD genes may explain early and severe polycystic kidney disease. J. Am. Soc. Nephrol. 22, 2047–2056 (2011).
  6. Iliuta, I. A. et al. Polycystic kidney disease without an apparent family history. J. Am. Soc. Nephrol. 28, 2768–2776 (2017).
  7. Hogan, M. C. et al. Characterization of PKD proteinpositive exosome- like vesicles. J. Am. Soc. Nephrol.20, 278–288 (2009).
  8. Leonhard, W. N. et al. Scattered deletion of PKD1 in kidneys causes a cystic snowball effect and recapitulates polycystic kidney disease. J. Am. Soc. Nephrol. 26, 1322–1333 (2015).
  9. Lee, K., Boctor, S., Barisoni, L. M. C. & Gusella, G. L. Inactivation of integrin- beta1 prevents the development of polycystic kidney disease after the loss of polycystin-1. J. Am. Soc. Nephrol. 26, 888–895 (2015).
  10. Karihaloo, A. et al. Macrophages promote cyst growth in polycystic kidney disease. J. Am. Soc. Nephrol. 22, 1809–1814 (2011).