第3章:

ADPKDに伴う多臓器障害

板橋中央総合病院腎臓内科主任部長 塚本雄介

Table 1.ADPKDにおける多臓器障害とJSNガイドラインによる治療の推奨

  症状 発症頻度 JSNガイドラインによる治療の推奨[12]
腎症状 尿濃縮障害[1] 小児患者の60%までに見られる。最初の兆候は見逃されることが多い。 積極的な飲水による腎機能障害進行抑制効果は明らかではないが、飲水によりバソプレシン分泌を抑え、結果として囊胞形成・進展を抑制することが期待されるため、2.5~4 L の飲水を推奨する。
<推奨グレード C1>
高血圧[2] GFRの低下の前に50-70%の患者に見られる。5歳以降で家族歴があればスクリーニングが必要。発症平均年齢は30歳。20〜40%の小児患者にも見られる。 降圧療法が高血圧を伴うADPKDの腎機能障害進行を抑制する可能性があり推奨する。
<推奨グレード C1>
末期腎不全[3] ①60歳までに50%の患者に見られる。ESKDに至る平均年齢:truncating PKD1変異=56歳;non-truncating PKD1変異=68歳;PKD2変異=78歳  
②トルバプタンの予防効果 トルバプタンは、Cock‒Croft 換算式によるCcr 60 mL/分以上かつ両腎容積 750 mL 以上の ADPKD において、腎容積の増加と腎機能低下を抑制する効果が示されており、その使用を推奨する。
<推奨グレード B>
(註:その後のREPRISE試験によってeGFR25-65mL/分/1.73m2の進行したADPKDにもトルバプタンは有効であることが示された。[13]
③タンパク質制限の予防効果 ADPKDに対するたんぱく質制限食の腎機能障害進行抑制効果についてはエビデンス不十分で明らかではないが、考慮してもよい。
<推奨グレードC1>
蛋白尿(>300mg/g)[4] GFR低下に伴う。ADPKDの予後決定因子である。  
腹痛または背部痛[5] 成人患者の60%以上に見られる。 腎動脈塞栓療法は末期腎不全ADPKDの腎容積縮小のために有効であり推奨する。
<推奨グレード C1>
腎結石[4] 20~35%の成人患者に見られる。尿酸結石およびシュウ酸Ca結石が多い。 尿路結石の予防効果を検討した研究はないため、推奨できる再発予防の薬物療法はない。しかし一般的な代謝障害による尿路結石の再発予防法に準じた薬物療法を考慮してもよい。
<推奨グレード C1>
嚢胞出血・肉眼的血尿[5] 成人患者の60%までに見られる。ほとんどの出血は無治療でも2~7日間で止まる。 ADPKDの進行を抑制する治療法にはならないが、疼痛、腹部圧迫など症候の原因となっている場合の治療法の1つとして、腎囊胞穿刺吸引療法が考慮される。
<推奨グレード C1>
  囊胞感染における診断やドレナージ、悪性腫瘍の合併が疑われる場合の診断には、腎囊胞穿刺吸引療法を考慮してもよい。
<推奨グレード C1>
  トラネキサム酸は保存的治療で改善が認められない場合には考慮してもよい。
<推奨グレード C1>
尿路感染症[5] 30~50%の成人患者に見られる。女性患者の方に多く見られる。 ニューキノロン系抗菌薬はADPKDの囊胞感染治療に有効である可能性があり、推奨する。
<推奨グレード C1>
腎細胞癌[6] 成人患者の1%未満。一般人口よりもリスクは高く無い。  
腎外症状 多発性嚢胞肝[7] >80%の患者に30歳までに見られる。 肝動脈塞栓療法はADPKDの肝容積縮小のために有効であり推奨される。
<推奨グレード C1>
脳動脈瘤[8] 全ての成人患者の8%。ICA家族歴を有する成人患者の21%。 ADPKD では脳動脈瘤の罹病率が高く、破裂した場合には生命予後に大きく影響するため、脳動脈瘤のスクリーニングを推奨する。
<推奨グレード B>
スクリーニングは以下の患者に行う;
①くも膜下出血またはICAの家族歴がある患者
②脳出血の既往のある患者
③運転手など高リスク患者
④移植を含む大手術の術前
脳動脈瘤の治療法は、脳動脈瘤の部位、形態、大きさ、全身状態、年齢、既往歴等を総合的に検討し決定される。治療を行うか行わないか、治療法の選択については脳神経外科専門医との相談を推奨する。
<推奨グレード C1>
くも膜嚢胞[5] 成人患者の8%に見られる。  
僧帽弁逸脱症または大動脈二尖弁[9] 成人患者の25%までに見られる。 心臓弁膜症スクリーニングによりADPKDの生命予後は改善され得るが、その可能性は中等度以上の症例に限定される。心雑音が聴取できた場合は、重症度評価のための心臓超音波検査をすることを推奨する。
<推奨グレード C1>
特発性拡張性心筋症または左心室緻密化障害[9] 稀で、家族歴があればスクリーニングを行う。  
心嚢液貯留[9] 成人患者の35%までに見られる。  
膵嚢胞[5] 成人患者の10%に見られる。  
憩室[5] 末期腎不全患者の50%までに見られる。腎移植後に憩室穿孔のリスクが高まる。  
気管支拡張症[5] 成人患者の35~40%に見られる。  
先天性肝線維症[10] 稀(症例報告のレベル)  
精嚢嚢胞[11] 精子機能異常との相関は見られない。  
男性不妊症[11] 精子機能異常が報告されている。  

Bergmann C. et al. Polycystic kidney disease. Nat Rev. Dis Primers (2018) 4:50より引用改変

文献

  1. Ho TA, Godefroid N, Gruzon D, Haymann JP, Marechal C, Wang X, et al. Autosomal dominant polycystic kidney disease is associated with central and nephrogenic defects in osmoregulation. Kidney Int. 2012;82(10):1121-9.
  2. Burgmaier K, Kunzmann K, Ariceta G, Bergmann C, Buescher AK, Burgmaier M, et al. Risk Factors for Early Dialysis Dependency in Autosomal Recessive Polycystic Kidney Disease. J Pediatr. 2018;199:22-8 e6.
  3. Cornec-Le Gall E, Audrezet MP, Chen JM, Hourmant M, Morin MP, Perrichot R, et al. Type of PKD1 mutation influences renal outcome in ADPKD. J Am Soc Nephrol. 2013;24(6):1006-13.
  4. Torres VE, Harris PC, Pirson Y. Autosomal dominant polycystic kidney disease. Lancet. 2007;369(9569):1287-301.
  5. Grantham JJ. Clinical practice. Autosomal dominant polycystic kidney disease. N Engl J Med. 2008;359(14):1477-85.
  6. Karami S, Yanik EL, Moore LE, Pfeiffer RM, Copeland G, Gonsalves L, et al. Risk of Renal Cell Carcinoma Among Kidney Transplant Recipients in the United States. Am J Transplant. 2016;16(12):3479-89.
  7. Chebib FT, Jung Y, Heyer CM, Irazabal MV, Hogan MC, Harris PC, et al. Effect of genotype on the severity and volume progression of polycystic liver disease in autosomal dominant polycystic kidney disease. Nephrol Dial Transplant. 2016;31(6):952-60.
  8. Pirson Y, Chauveau D, Torres V. Management of cerebral aneurysms in autosomal dominant polycystic kidney disease. J Am Soc Nephrol. 2002;13(1):269-76.
  9. Ecder T, Schrier RW. Cardiovascular abnormalities in autosomal-dominant polycystic kidney disease. Nat Rev Nephrol. 2009;5(4):221-8.
  10. O'Brien K, Font-Montgomery E, Lukose L, Bryant J, Piwnica-Worms K, Edwards H, et al. Congenital hepatic fibrosis and portal hypertension in autosomal dominant polycystic kidney disease. J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2012;54(1):83-9.
  11. Luciano RL, Dahl NK. Extra-renal manifestations of autosomal dominant polycystic kidney disease (ADPKD): considerations for routine screening and management. Nephrol Dial Transplant. 2014;29(2):247-54.
  12. 日本腎臓学会編:エビデンスに基づく多発性嚢胞腎診療ガイドライン2014.
  13. Torres VE, Chapman AB, Devuyst O, Gansevoort RT, Perrone RD, Koch G, et al. Tolvaptan in Later-Stage Autosomal Dominant Polycystic Kidney Disease. N Engl J Med. 2017;377(20):1930-42.