第4章:

利尿薬としてのV2受容体選択的アンタゴニストの臨床

板橋中央総合病院腎臓内科主任部長 塚本雄介

トルバプタン(サムスカ®)はバソプレシンV2受容体選択的アンタゴニストで2010年以降「その他の利尿薬が効果的でない体液貯留を伴う心不全と肝硬変」に経口利尿薬として使用されるようになり(3.75 mg〜15 mg/日)、2014年からは利尿薬としての適応に加え常染色体優勢遺伝多発性嚢胞腎ADPKDの進行抑制を適応として投与が開始されている(60mg〜120 mg/ 日)。

  • A.血清浸透圧が上昇した場合の正常な反応

  • B.Tolvaptan投与時の正常な反応

  • C.ADPKD患者におけるTolvaptan投与時の反応

1)トルバプタンの作用機序(Fig. 1)

集合管主細胞の血液側細胞膜にあるバソプレシンV2受容体の選択的拮抗薬であり水チャネル(aquaporin-2)の細胞膜への誘導を阻害して水再吸収を選択的に抑制する。他の利尿薬と異なり、水を選択的に排泄促進し、電解質の尿中喪失が少ない点が特徴である。丁度、尿崩症と同じ状態を作り出す薬剤である。

血液浸透圧が増加すると視床下部の浸透圧受容体を介して下垂体後葉からバソプレシン(抗利尿ホルモン)が分泌される。バソプレシンは集合尿細管の主細胞の血液側細胞膜に存在するV2受容体に結合し、adenylate cyclaseを刺激してcyclic AMP(cAMP)の産生を増加させる。cAMPはprotein kinase A(PKA)を賦活化し、PKAはaquaporin-2をリン酸化する。aquaporin-2はリン酸化されて初めて活性化して細胞膜へ運ばれ水再吸収が行われることになる。すなわち、トルバプタンの主要な薬理的作用は利尿薬である。

ADPKDでは尿管腔にあるciliaという微絨毛に存在するpolycyctin-1(PC1)とpolycystin-2(PC2)という膜貫通型蛋白による複合体の遺伝子異常症である。PC2はCa2+を細胞内に取り込むチャネルの役割を有している。このためADPKDでは細胞内Ca2+濃度の調節に異常を来し、細胞増殖に対し有効なアポトーシスによる制御に支障をきたすことが嚢胞形成を起こす一つの機序と考えられている。一方、cAMPによるPKA賦活化はRAS-RAF-ERK系を介する経路と介しない経路で細胞増殖を促進する。このことから、V2受容体の抑制がcAMP産生を抑制することでPKAを介した細胞増殖を抑え、嚢胞形成を抑制すると考えられる。トルバプタンがADPKD進展抑制を目的として使用される所以である[1]

2)利尿薬としての投与法

(ア)急性心不全における体液貯留における利尿薬の投与

急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)では、左室駆出率(left ventricular ejection fraction:LVEF)が低下した心不全 (HFrEF)とLVEFの保たれた心不全(HFpEF)の両者において、「うっ血に基づく労作時呼吸困難、浮腫などの症状を軽減するのに最も有効な薬剤」として利尿薬を推奨している。HFrEFでは、ループ利尿薬が第一選択薬で、「ループ利尿薬単独で十分な利尿が得られない場合にサイアザイド系利尿薬との併用を試みてもよい」と推奨している(推奨クラスI)[2]

このループ利尿薬の問題は低K血症と低Na血症にあり、往々にしてGFRを低下させ、観察研究では生命予後悪化につながるという後ろ向き解析結果がある。このため、ループ利尿薬に加えてトルバプタンを投与することが推奨された(推奨クラスIIa)。このトルバプタンの急性心不全に対する効果を比較した最初の大規模RCTである欧米で行われたEVEREST研究ではうっ血症状を改善するものの、数年間に及ぶ長期予後に関しては有意差を持たなかった[3]。ただし、欧米での心不全による死亡率は高く、数年に及ぶ試験経過の中で著しく脱落率が多いことがこの試験の解析を難しくした。一方、その後本邦で行われたいくつかのRCTではGFRをループ利尿薬に比較して低下させない、入院中死亡率や再入院率の低下などのポジティブな結果が得られており、臨床では実際に多用されるようになっている[4, 5, 6]

(イ)肝硬変における体液貯留における利尿薬の投与

肝硬変診療ガイドライン2015に掲載された腹水治療フローチャートでは、少~中等量腹水に対してはスピロノラクトン25~100mg単独またはフロセミド20~80mg内服との併用を推奨している。その不応例には入院の上で、さらにトルバプタン3.75~7.5mgの併用を推奨している。ステートメントとしては「ループ利尿薬、抗アルドステロン薬との併用条件下で、低ナトリウム血症、腹水の改善に有効であるため、適応を慎重に選んで投与することを推奨する(推奨の強さ1、エビデンスレベルA)」としている[7]

(ウ)トルバプタンの投与法

添付文書に極めて詳細かつ具体的に記されているのでこれに従って投与することが重要である。以下に心不全と肝硬変における投与法を比較列挙する。

  心不全における体液貯留 肝硬変における体液貯留
用法・用量 通常、成人には15mgを1日1回経口投与する。 通常、成人には7.5mgを1日1回経口投与する。
用法・容量に関連する使用上の注意 血清Na濃度が125mEq/L未満の患者、急激な循環血漿量の減少が好ましくないと判断される患者、高齢者、血清Na濃度は正常域内で高値の患者に投与する場合は、半量(7.5mg)から開始することが望ましい。 血清Na濃度が125mEq/L未満の患者、急激な循環血漿量の減少が好ましくないと判断される患者に投与する場合は、半量(3.25mg)から開始することが望ましい。
効能・効果 ループ利尿薬等の他の利尿薬で効果不十分な体液貯留(註:ループ利尿薬が先に投与されている必要がある。)
禁忌 口渇を感じない又は水分摂取が困難な患者、高Na血症の患者、適切な水分補給が困難な肝性脳症の患者、無尿の患者、過敏症の既往、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人(註:従って人工呼吸器に装着している患者には禁忌となる)。
重要な基本的注意

①本剤はNa排泄を増加させないことから、他の利尿薬と併用して使用すること。(註:単独投与は禁止)

②本剤の投与初期は、過剰な利尿に伴う脱水、高Na血症などの副作用があらわれる恐れがあるので、口渇感等の患者の状態を観察し、適切な水分補給を行い、体重、血圧、脈拍数、尿量等を頻回に測定すること。

③本剤投与開始後24時間以内に水利尿効果が強く発現するため、少なくとも投与開始4 ~ 6 時間後並びに8 ~12時間後に血清Na濃度を測定すること。投与開始翌日から1週間程度は毎日測定し、その後も投与を継続する場合には、適宜測定すること。このため、初回開始および再開に際しては入院の上で行うこと。(註:1日目では利尿効果はそれほどでもなく二日目に爆発的に増加することを筆者は何回か経験している。理由は不明。)

④血清Na濃度125mEq/L未満の患者に投与した場合、急激な血清Na濃度の上昇により、橋中心髄鞘崩壊症を来すおそれがあるため、24時間以内に12mEq/Lを超える上昇がみられた場合には、投与を中止すること。 (註:週末に亘る開始で、口渇にも関わらず水補給を怠ったことで、急激な高Na血症になったインシデントを筆者は経験している。幸い脱髄症候群は起こさなかった。)

⑤本剤の水利尿作用により循環血漿量の減少を来し、血清K濃度を上昇させ、心室細動、心室頻拍を誘発するおそれがあるので、本剤投与中は血清K濃度を測定すること。

⑥本剤の投与初期から重篤な肝機能障害があらわれることがあるため、本剤投与開始前に肝機能検査を実施し、少なくとも投与開始2 週間は頻回に肝機能検査を行うこと。またやむを得ず、その後も投与を継続する場合には、適宜検査を行うこと。

⑦肝硬変患者では、本剤の投与により消化管出血のリスクが高まるおそれがあるため、患者の状態を十分に観察し、消化管出血の兆候があらわれた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。

⑧めまい等があらわれることがあるので、転倒に注意すること。また、高所作業、自動車の運転等危険を伴う機械を操作する際には注意させること。

使用上の注意

①体液貯留所見が消失した際には投与を中止すること。[症状消失後の維持に関する有効性は確認されていない。]

②目標体重に戻った場合は、漫然と投与を継続しないこと。

③体液貯留状態が改善しない場合は、漫然と投与を継続しないこと。

 

⑨口渇が持続する場合には、減量を考慮する。

⑩CYP3A阻害薬との併用は避けることが望ましい。

夜間の頻用を避けるために、午前中の投与が望ましい。

②本剤の投与により、重篤な肝機能障害があらわれることがあること、国内臨床試験において2週間を超える使用経験がないことから、体液貯留が改善した場合には、漫然と投与を継続せず、必要最小限の期間の使用にとどめること。

(註:筆者の意見)

3)実臨床からの添付文書への補足

(ア)低Na血症を伴う体液過剰に効果的

何と言ってもループ利尿薬ではむしろ増悪させてしまう希釈性低Na血症を合併している体液貯留に有効な点である。血清Na濃度が正常化した場合は、口渇を適切に感じ自由水を自由に経口摂取できるならば飲水を許可することで高Na血症を予防できるが、そうでない場合は適切に自由水を補給することが必須になる。また心不全や肝硬変では希釈性低ナトリウム血症であり、Na自身の貯留はあることから投与にあたっては他の利尿薬との併用が推奨されている。ただしRAA系阻害薬との併用は高カリウム血症をきたしやすくするので注意する。

(イ)GFR低下が見られない。

多くの肯定的なRCTはもっとも本邦から発表されている。投与量が」15mg/日までであれば、フロセミドがGFRを低下させるのに対し、トルバプタンではGFR低下は見られず、レニンーアンジオテンシン系の賦活化も起きない。[4]

(ウ)急激な血清Na濃度上昇と肝障害に注意!

このため、どの適応においても開始時は入院下で投与することが義務付けられており、急激な利尿とそのための高Na血症は意識障害や橋中心髄鞘崩壊症を引き起こす危険があるので急速な血清Na濃度の上昇に十分注意する。特に高張食塩水との併用は危険である。また、ADPKDへの大量投与では重篤な肝機能障害の発症例があるので肝機能チェックによる全例報告が義務付けられている。患者には自由に飲水にアクセスできるようにしておかないと、重篤な高Na血症の原因になる。

(エ)薬物動態は?

トルバプタンの生体利用率は40~50%でほとんどが蛋白結合し、肝臓でCYP3A4により代謝されるので併用薬に注意する。血中半減期は2.9時間(45 mg)〜9.3時間(120 mg)で、最大利尿までの時間は2時間である。しかしながら、投与初日ではなく2日目から急激に利尿が開始された例を私たちは経験しており、投与初日だけでなくその後数日間は十分な監視が必要である。口渇を正確に感じて自由に飲水できる環境であれば問題はない。

(オ)血清K、Ca、Mg濃度に大きな変化をもたらさない!

他の利尿薬に見られるように自由水が減少することで変化を受けるNa+, Cl-以外の電解質濃度に大きな変化をもたらさず、酸の排泄も促進しないので代謝性アルカローシスも防ぐことができる。低K血症は心筋の収縮能を低下させたり、腎におけるアンモニア産生を増加させたりすることにより心不全や肝硬変にとって極めて好ましくない副作用であり、この点でのトルバプタンの有用性は高い。ただしRAA系阻害薬との併用は高カリウム血症をきたすことがあるので注意する。

(カ)血管拡張を伴わない!

トルバプタンはV2受容体選択的なので血管拡張による低血圧は起こさない。この点がカルペリチドとの違いである。もちろん、過剰な利尿による体液減少は低血圧を引き起こす。

4)トルバプタンに不応な場合

(ア)低Na血症の15%でトルバプタンへの反応が悪いことが報告されている。その理由として考えられるのは、

①バソプレシンに非依存性な部分のネフロンにおいて尿希釈が行われているような病態で、重度の心不全や肝不全で見られる。

②重症の低浸透圧血症ではADH濃度が高いことがあり、相対的にトルバプタンの投与量が少ない可能性がある。

③過剰な水摂取により低Na血症が持続している場合。

④粉砕して経管で投与すると効果が減弱する。

⑤作用亢進性V2R遺伝子異常のNephrogenic Syndrome of Inappropriate Antidiuresis (NSIAD)と呼ばれる稀な病態が存在する。

(イ)反応を決定する因子

①心不全の場合、入院後3日以内の早期の開始が、トルバプタンの反応性(50%以上の尿量増加)、早期の心臓リハビリテーション開始、入院期間の短縮、入院中死亡リスクの低下につながることが報告されている[5]

②メタ解析の結果、腎機能の維持を特に優先する場合3.75-7.5mgという少量からの開始が推奨される。また併用するフロセミドの投与量が多いほど、血清Cr値の増加量が多いという解析結果がある[8]

③80歳以上の高齢者とそれ以下ではSMILE研究のサブ解析では反応性に差がなかった。ただし、口渇の鈍麻が見られる場合が多いので、3.75mgからの開始が良いと思われる[6]

④反応不良患者の特徴としては基礎値の尿浸透圧が反応良好患者より低く、平均値が等浸透圧付近にある。すでに濃縮能の障害もしくはバソプレシンの反応性が低下していることが考えられる。

⑤心不全において駆出率が低い場合でも維持されている場合でもトルバプタンは効果的と報告されている一方、IVCが拡張し右心系の拡張が見られるとより効果的とも報告されている[9]

文献

  1. Bergmann C. et al. Polycystic kidney disease. Nat Rev. Dis Primers (2018) 4:50
  2. 日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン:急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
    http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2017_tsutsui_h.pdf
  3. Konstam MA, Gheorghiade M, Burnett JC, Jr., Grinfeld L, Maggioni AP, Swedberg K, et al. Effects of oral tolvaptan in patients hospitalized for worsening heart failure: the EVEREST Outcome Trial. JAMA. 2007;297(12):1319-31.
  4. Jujo K, Saito K, Ishida I, Furuki Y, Kim A, Suzuki Y, et al. Randomized pilot trial comparing tolvaptan with furosemide on renal and neurohumoral effects in acute heart failure. ESC Heart Fail. 2016;3(3):177-88.
  5. Matsukawa R, Kubota T, Okabe M, Yamamoto Y. Early use of V2 receptor antagonists is associated with a shorter hospital stay and reduction in in- hospital death in patients with decompensated heart failure. Heart Vessels 2016;31:1650–8.
  6. Kinugawa K, Sato N, Inomata T, Yasuda M, Shibasaki Y, Shimakawa T. Novel risk score efficiently prevents tolvaptan-induced hypernatremic events in patients with heart failure. Circ J 2018;82:1344–50.
  7. 日本消化器病学会編:肝硬変診療ガイドライン2015
    https://www.jsge.or.jp/files/uploads/kankohen2_re.pdf
  8. Imamura T, Kinugawa K. Update of acute and long-term tolvaptan therapy. J Cardiol. 2019;73(2):102-7.
  9. Imamura T, Kinugawa K. Tolvaptan Improves the Long-Term Prognosis in Patients With Congestive Heart Failure With Preserved Ejection Fraction as Well as in Those With Reduced Ejection Fraction. Int Heart J. 2016;57(5):600-6.